天童の人間将棋は『3月のライオン』と桜満開で例年3倍来場の大盛況

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東北温泉旅行のついでに、山形県天童市の人間将棋を見に行ってみた。武者姿の人間が巨大な盤面上でプロ棋士の指図のもとに戦うという荒唐無稽なイベントだが、実は1972年から62回も行われている伝統行事であるらしい。

今年はちょうど映画『3月のライオン』の後編上映のタイミングで、主役の神木隆之介、大友啓史監督のトークショーも予定されている豪華な内容だった。土曜の初日は近隣県でも大きなニュースになっていたので、好天と桜満開の条件も重なって朝からものすごい人出だった。

会場のアナウンスによると例年の3倍は人が来ているとのことで、昼前には入場制限が行われていた。斜面の階段上から眺めるかたちになり、人間将棋で将棋倒しの事故が起こってはしゃれにならない。

桜満開の登山道を歩いて舞鶴山へ

仙台から国道48号のトンネルで奥羽山脈を越えると、山形の方はまだ肌寒かった。桜の開花も太平洋側より遅く、人間将棋の日に満開になるのはめずらしいとのことだった。会場の舞鶴山では交通規制が行われるので、車で来たらふもとの道の駅「わくわくランド」に止めると便利だ。

かなり早く8:30には到着して無料の足湯で休憩。ほどなく駐車場が満車になり、シャトルバスにも長蛇の行列ができていた。地図を見ると舞鶴山までたいした距離ではなさそうなので、歩いて山頂に向かってみた。途中に大きな沼や桜並木の登山道があって景色を楽しめる。

早めに着いて座席を確保できたが、9時になってシャトルバスが続々上がって来ると満席になった。トークショー目当てのお客さんは、人間将棋は見えない反対側の広場に誘導されていた。

「3月のライオン」トークショー

午前中は天童花駒踊りや神輿をかつぐ行事が一通り終わった後、櫓の上で映画のトークショーが行われた。俳優が出ている間は撮影禁止だったが、かなり距離があるのでほとんど顔は見えない。それでも最前列に陣取っているのは熱心なファンのようで、手を振っては異様に盛り上がっていた。

サイン入りポスターなど、プレゼントの当選者が「好きな陣形は?」とインタビューされて、子供や女性が「棒銀」「居飛車」とすらすら答えていたのは不思議だった。会場を見渡しても、将棋の本を広げている小学生とか、対局を見ながらプロっぽいコメントをしている人もいた。冗談のようなイベントだが、将棋マニアが集う恒例行事であるようだ。

『3月のライオン』を観ていないのでトークの内容についていけなかったが、原作の漫画には天童の人間将棋も登場するらしい。午後に入ってプロ棋士のトークショーでも「マンガのキャラで誰が好きか」という話で盛り上がっていた。実在の棋士がモデルになっていたりして、プロもみな読んでいるという風だった。

映画のトークショーが終わると、半分くらい人がいなくなった。この後、イオンモールの映画館の方でもイベントがあるようなので、ファンはそちらに流れたのだろう。

無料のそばに20万円の将棋駒展示即売会

昼飯時に無料のそばが振る舞われていたが、ものすごい行列でありつけなかった。出店を見渡すと、天童らしく将棋の駒が売られている。柘(つげ)といえば印鑑の材料で一番安い素材だが、将棋の駒としては高級な部類になる。一番高い薩摩本柘で定価20万円のセットがあった。

今日は最後にプロと対戦できる「百面指し」のイベントもあるが、テントの中ではすでに白熱した対局が繰り広げられていた。中には未来のプロ棋士と思しき子供も混ざっている。

午後はプロ棋士トークショーと人間将棋本番

午後の催しは、前日対戦していた室谷由紀女流二段と中村桃子女流初段による人間将棋の振り返りから。遠くてよく見えないが、その後の対戦で聞き手にも登場していた女流棋士はちょっとしたアイドル並みの人気だった。

その後、棋士のトークショーと、将棋駒の生産が江戸時代の天童藩織田家にさかのぼるということで、織田信長に扮した役者による寸劇があった。

やっと登場した人間駒40名は、全国から抽選で選ばれた一般人とのことだ。実際には盤上で斬りあったりするようなアクションはなく、ただ座っているだけだが、60年も続く伝統の人間将棋に出たというのは末代まで自慢できるかもしれない。

両側の一段高いところから棋士が指示を出すのだが、セリフがいくつか用意されているのか「○○じゃ」と、時代劇っぽく棒読みするのがおもしろかった。対戦している棋士の独白と、解説・聞き手がいなければ、かなりシュールなイベントだったことだろう。一手動かすごとに、各駒に割り当てられた太鼓の音頭も鳴らされる。

甲冑姿の武者に比べて、将棋盤のまわりのセットは微妙にしょぼい。上から見ていると、なんとなく「風雲!たけし城」を思い出した。

メインの人間将棋は1時間半の予定なので、後半は駆け足の急展開だった。自分も将棋は多少たしなむが、ソフトのAI相手ではレベル1でも勝てないくらい弱い。囲いや陣形の見どころもいまいちわからなかったのが残念だ。それでも馬で最初の王手がかかったときは、ついうっかりと言いながらも手を抜いたように見えた。

限られた時間の中で全部の駒を動かすとか、それなりに見どころをつくって接戦を演じるのはさすがプロだ。実際には水面下でもっと高度な駆け引きが行われていたのかもしれない。将棋の知識があればさらに楽しめるだろう。

天童名物、鳥中華の元祖「水車生そば」へ

帰りのシャトルバスも行列していたので、歩いて舞鶴山を下りた。棋士のトークショーで「水車の鳥中華」と言われていたのが気になって調べたところ、「蕎麦屋がつくる和風スープのラーメン」という天童名物であることがわかった。

会場から歩いて行ける距離にある元祖鳥中華の「水車生そば」に向かってみたところ、こちらも店の外まで行列ができていた。それでも座席数が多いのか、どんどん進んで15分ほどで着席できた。家計図によると、江戸時代から続く老舗だ。

せっかくなので山形名物の板そばも注文。通常の2人前くらいの分量だが、そばなら一人でこのくらい食べないと満足できない。富士そばの富士山盛りは高さが売りだが、山形では面で攻めてくる感じだ。若干太めの麺が歯ごたえあっておいしかった。

鳥中華の方は事前の調査通り、カツオと昆布の出汁で見た目よりあっさりしている。天かすが浮いているのは変わっているが、ちょうどそばに天ぷらを乗せる感覚で、油分が加わり旨味が増す。

和風だしのラーメンという意味ではさほど驚きはなかったが、近所にあればたまに食べたくなるような、落ち着いた味付けだ。

天童最上川温泉「ゆぴあ」の巨大露天風呂

山形といえば温泉も欠かせない。日帰り温泉の中では広くて余裕がありそうだった、最上川近くの「ゆぴあ」に行ってみた。県内最大規模の露天風呂だが、通常300円の料金が20周年記念のイベントで200円に。先日訪ねた赤湯の共同浴場も100円だったので、山形の温泉は安すぎる。

洗い場は混んでいて芋洗い状態だが、露天風呂は25mプールくらいの広さがある。内湯は高温・低温に分かれているが、低い方でもかなり厚く、高温側は50度近くありそうな熱湯だった。草津や秋保の共同浴場に匹敵する高温で「安い風呂は温度が高い」という法則があるのだろうか。客の回転を速める効果はあるかもしれない。

ゆぴあのサウナは、バスタオルを持参するか受付でレンタルしないと入れないルールなので注意。

天童市のふるさと納税でもらった将棋駒

以前、天童市にふるさと納税したことがあり、玄米と一緒に将棋駒のキーホルダーをもらったことがある。馬が逆さになった左馬は縁起がよいらしい。自宅の鍵につけて3年くらい使っていたら、すり減ってだいぶ味が出てきた。当時は人間将棋も知らず「なんで将棋の駒?」と思ったが、現地を訪れることになるとは奇縁だ。

天童の土産物屋でも売られていて、500円くらいは価値があるものだ。駒に彫る漢字や色も選べたと思うので、将棋好きな人へのプレゼントにいいかもしれない。

人間将棋のついでに、料理も風呂も楽しめて天童観光を満喫できた。途中で通った関山街道~フルーツライン沿いにはサクランボ畑をたくさん見かけたので、6月のシーズンになったらまた訪れてみたい町だ。