一澤信三郎帆布と㐂一澤(きいちざわ)の違いを京都で確認

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京都出張のついでに、帆布素材のバッグで有名な一澤信三郎帆布と㐂一澤を訪ねてみた。10年前に話題になった相続トラブルのあと、それぞれのお店は一体どうなっているのだろうか。

創業家と経営陣の仁義なき戦い

株主総会において、意見の合わない役員が解任されることはよくある。非上場のベンチャーから大手企業まで、株式会社といえばその手の話題にこと欠かない。

近頃はクックパッドや大戸屋、大塚家具、出光興産などのお家騒動がワイドショーをにぎわせている。従業員や顧客側からすれば見苦しいものだが、首が飛んだり支配権を失うかもしれない当事者からすれば必死なのだろう。

所有と経営がきっぱり分離されていればもめ事は少ないとはいえ、最近は外野から「物言う株主」まで現れる。それに対抗して経営陣がMBO(マネジメント・バイアウト)を仕掛けたりと、本業そっちのけで大騒ぎになるケースもある。

一澤帆布の相続問題

一澤帆布の場合、3代目会長の死後に兄弟の間で血なまぐさい相続合戦が繰り広げられた。

偽の遺言状をもって乗り込んで来た長男。追い出された実質経営者の三男および職人が、退社して別会社を設立。

訴訟では三男側が勝利して元のサヤに収まったが、今度は解任された四男も近くで店を立ち上げ、三つ巴の争いに発展。

詳しい経緯は「一澤帆布工業」のウィキペディアに詳しくまとめられている。

一澤帆布

訴訟合戦の舞台が京都で3代続いた老舗だったということ、また偽造の遺言状や兄弟喧嘩などスキャンダラスなネタも多く、ゴシップとしてはうってつけだった。

社長より株主が強い

会社名で検索して上位に出るWikiに、昔の相続トラブルが長々と記録されているのは気の毒だ。炎上商法と同じで一時的に名前は売れるが、長い目で見れば会社のブランドを損なっている。

ビジネス上のトラブルとして事件を振り返ると、一澤帆布の騒動は「敵対的のれん分け」とでも呼べそうな好事例だ。

もともと経営に関わっていなかった長男よりも、会社を切り盛りしていた三男夫妻の肩を持ちたくなるのが人情というもの。しかし株式を80%も相続すれば、役員解任や会社売却など特別決議で何でも決められる。

あらためて「会社は株主のもの」という事実を思い出させられた。会社法というルールのもとでは、育ての親より生みの親が強いのだ。

一澤信三郎と㐂一澤の本店を比較

四条河原町から東に歩いて鴨川を渡り、祇園の繁華街をまっすぐ進む。八坂神社の交差点を北に曲がり、だいぶ進んだ先に四男がオープンした㐂一澤のショップがある。

東大路通をさらに北上すると、三男が経営する一澤信三郎帆布が出てくる。両店舗の距離は近く、歩いてはしごすることができる。

癖がなく使いやすい㐂一澤

店名の「㐂一澤(きいちざわ)」は一見どう発音してよいのかわからない。

パソコンで変換するのも至難の業。公式サイトでは「喜一澤」とも書かれているので、どちらの漢字を使ってもいいようだ。

ショップのアクセスマップは大ざっぱでわかりにくい。八坂神社から知恩院方面に向かって、実際にはかなり歩く必要があった。

喜一澤帆布の本店

店内はワンフロアで、帆布製のカバンや小物がところせましと吊るされている。

㐂一澤には本家の一澤信三郎帆布より、小型のポーチやブックカバーなど安めの雑貨がそろっている。

とはいえ一番安い小銭入れでも1,600円。一般的な布製品から想像される価格よりも2倍以上高い。いまや帆布は高級品なのだ。

喜一澤帆布のショーウィンドウ

㐂一澤は後発組なので、いろいろ工夫を凝らした新商品が多いのではと想像していた。しかし一澤信三郎帆布と比べると柄物も少なく、かえってオーソドックスな定番ものが多かった。

昔ながらの質実剛健な帆布製品を求めるなら、バリエーション豊富な一澤信三郎帆布より㐂一澤の方が向いているかもしれない。

柄物が多い一澤信三郎帆布

南にある㐂一澤に比べると、一澤信三郎のショップは2階建てで豪華。大きな暖簾をかかげた店構えも立派で、観光客がひっきりなしに出入りしている。

一澤信三郎帆布の本店

ショーウィンドウを見ると、㐂一澤に比べて柄物や別注品が多いようだ。パッと見では帆布素材と思えないポップなデザインも多く、女性ウケがよさそう。

一澤信三郎帆布のショーウィンドウ

なかには「ここまでやるか」とうならせる、迷彩柄のトートバッグまである。

一澤信三郎帆布の迷彩トートバッグ

価格は2万円近くするが目立つこと請け合いだ。流行のファッションアイテムでも品質は一澤帆布なので、メンテしながら長く使えることだろう。

種類豊富な一澤信三郎帆布のコラボ商品については、宝島社のムック本で紹介されている。

店頭に並べられているのは柄のついたトートバッグが大半。しかし奥に行けばビジネスにも使えそうな、無地のブリーフケースやボストンバッグも置いてある。

オールブラックの商品なら帆布素材でもカジュアルになりすぎず、仕事でも使えそうな気がした。

綿帆布と麻帆布の違い

一澤信三郎帆布の2階には、めずらしい麻素材の帆布製品が置いてある。店員さんに使用感を聞いてみたところ、「使い込むと綿よりくたっとして味が出る」とのこと。

たしかに展示されていた見本品は、10年以上使い込まれてほどよく色も落ちている。麻の強度は綿と変わらないそうだ。

帆布素材の修理と手入れ

帆布のバッグは角の部分から傷みやすい。

しかし擦れて穴が開いたコーナー部分は、800円くらいで布を継ぎ当てして修理可能とうかがった。薄手のナイロンバッグはくたびれたら終わりだが、帆布素材はケアして長く持たせられる。

バッグには防水加工が施されているため、洗濯は推奨されていない。しかし元は布素材なので、中性洗剤を使って手洗いできる。

一澤信三郎帆布のサイトでは、帆布バッグの手入れ方法が詳しく紹介されている。

帆布バッグの選び方

2つのショップを比較して、一澤信三郎帆布の方が流行を意識した野心的な商品を出しているように見えた。店舗も大きく、㐂一澤よりずっと繁盛している。

一澤信三郎帆布の柄物トートバッグ

一澤信三郎にも無地の定番ラインはそろっている。そのうえで柄物やコラボ商品を多く手がけているのは、単純に資本力の差だろうか。

今となっては素朴なリュックサックやショルダーバッグをつくり続けている㐂一澤の方が、実直で老舗らしく見えないこともない。

人とかぶらない喜一澤

「信三郎帆布」と「一澤帆布製」のタグが付いたバッグは街中でよく見かける。人とかぶるのが嫌なら、あえて「㐂一澤製」を選んでうんちくを語るのもありだ。

ただし一澤帆布のニセモノと間違われるおそれもあるので、これは上級者向けのテクニックといえる。

きいちざわ

ほかにも東京浅草の「犬印鞄製作所」をはじめとして、横須賀帆布鞄、須田帆布、倉敷帆布、大分の佐藤防水店など、無数の帆布メーカーがひしめき合っている。L.L.Beanなどの海外勢も含めると、キャンバスバッグは激戦区だ。

帆布素材は耐久性が高いので、一度買うと長持ちしすぎて買い替えられないのが悩ましい。

ナイロン素材はもとより、下手すると本革より強いのではないだろうか。帆布は革と違って、定期的にクリームを塗って栄養を与えたりする必要もないのが便利だ。

知名度で選ぶなら一澤信三郎

帆布バッグのブランドは無数にあるが、知名度からすれば一澤帆布のひとり勝ちだろう。

長く愛用するつもりなら、国産品の方が修理しやすい。そして価格も形もたいして変わらなければ、あえて他の○○帆布を選ぶのは冒険といえる。

姉妹店(競合店)喜一澤の品質も良さそうだが、本家のコピー商品に見えてしまうきらいがある。

特にこだわりのない帆布バッグ初心者であれば、メジャーな一澤信三郎帆布を選ぶのが無難といえる。