100年後に世界遺産に選ばれそうな、仙台のメディアテークを観光

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仙台に来て城跡を見て見て牛たんも食べたら、もうひとつおすすめしたい観光スポットが「せんだいメディアテーク」という公共施設だ。メインは市立図書館だが、ギャラリーやミュージアムショップ、カフェも併設された複合施設である。

伊東豊雄の設計で、ここ20年くらいの間に国内に竣工した現代建築としては、最も有名でないかと思う。気軽に見学できるオープンさも相まって、わざわざ海外から見に来る人も多い。このまま100年くらい維持されれば、そのうちコルビュジェの作品のように、世界遺産になってもおかしくないと思われるくらいの名作だ。

メディアテークが人気の理由

仙台駅から少し離れているが、アーケード街や国分町の通りをジグザグに歩いて行くと散歩を楽しめる。政令指定都市の中心部としては、やけに枝振りが勢いよすぎるケヤキ並木が目印の定禅寺通り。何となく表参道のTOD’Sを彷彿させるロケーションに、メディアテークは立っている。見た目はよいが、毎年秋の落ち葉を片づけるのが大変だろう。

外見はガラス張りの、どこにでもありそうなオフィスビル。しかしガラスの箱の中はありきたりの鉄筋コンクリートでなく、うねうねした白いチューブ状の鉄柱で支えられている。そして極薄の天井=床板が横から透けて見えるのが、作品のコンセプトを明確に表している。

普通の人にはピンとこないのだが、メディアテークがすごいといわれる理由はその構造形式にある。100年以上前から近代建築の特徴を決定づけた「柱・梁によるラーメン架構」という構造ではない、新しい方式が実験されている。

仙台の文化レベルが著しく向上

この複雑な構造を実現するために、膨大な設計の労力と構造計算、そして気仙沼の造船業者を動員した職人芸の溶接が行われている。総工費にして130億円。もし自分が仙台市民だったら、普通のビルでいいから浮いた予算で住民税を減らしてほしい。

ただし、この作品があまりに有名になったため、仙台の文化的なイメージが劇的に向上したと思う。海外からの訪問も含めて、観光振興の効果は計り知れない。エッフェル塔やポンピドゥーセンターのように斬新な建築物は、たいてい最初は批判されるが、後世になってから価値を認められるものだ。

奥州藤原氏や伊達氏の金ぴか好みに代表されるように、昔から東北のカルチャーは変てこである。上方や江戸から距離があるので仕方ないが、食べ物も趣味も品がないというか節操がない。松島あたりの土産物屋に行くと、なぜか「まりもっこり」という北海道のマスコットキャラがたくさん並んでいる。

どう見ても卑猥すぎる代物で良識を疑うが、喜んで買う人がいるから売っているのだろう。姉妹品の大仏もっこりやザビエルもっこりはさすがに発禁になったというから、これが宮城で大ヒットしたのは県民性を疑う現象だ。

9時開館だが図書館は10時オープン

メディアテークは9時オープンだが、メインの図書館は10時開館という謎の時間差がある。そのため毎朝図書館フロアの下に、座り込みの行列ができる現象が見られる。

なぜそこまでして朝早く並ぶ人がいるのかというと、図書館の中2階に電源付きのデスクがあるからだ。10時ギリギリに並んだら、前方の20人くらいがダッシュして速攻全席埋まってしまった。

これだけ街中にあってカフェ代わりに利用できる勉強スペース。まわりの人も教養レベルが高そうというか、ほかの図書館のようにホームレスまがいの怪しいおじさんがいない。平日昼間の図書館にたむろう人はたいてい訳アリなので、ぶつぶつ独り言をしゃべっている変な人も見かけるが、まだ他より少ない方だ。

建物の裏側もぬかりない

開館を待つ間に、メディアテークをぐるっと一周してみた。裏側は駐車場の入口と非常階段、消防隊の進入口とおぼしきベランダが設置されているが、あくまでガラス張りで構造的なコンセプトをアピールしている。

仙台市街地は基本的に平坦だが、ここだけ北に向かって若干傾斜があり、建物内外にスロープが設けられている。西の自転車置き場近くにあるエントランスは、上階に向かうエスカレーターに近いからか、9時前から並んでいるお客さんがいる。北側の通用口は、席取りに最も不利な距離にあるため、人気がない。

大通りに面した側には、ちょっとだけ庇が出ているので、雨に濡れずに開館待ちできる。ガラスのサッシにヒンジが付いていて不思議に思ったのだが、非常時には壁ごと全開になる仕組みなのだろうか。

内側から見ると、確かにハンドルがあって開閉できそうだ。

軒の上を見上げると、カーテンウォールを支える方立ブラケット部分も透明なガラスでできている。

こういう細かいところも妥協していないのが、人気の理由だと思う。

建物の中身も透け透けすぎる

白い鉄柱のチューブ構造は、これで建物を支えているのが不思議なくらい華奢に見える。これでも震災のときにはガラスが割れるくらいで済んだというのが不思議だ。

天井は限りなく薄くフラットに見えるよう、黒っぽい鉄板が丁寧に溶接されている。照明と空調装置、ガラスの防炎垂壁など、設備と法規上必要なもの以外は、一切省いたといえるくらいの徹底ぶりだ。

2階に上がるエスカレーターの折り返し部分から、トイレの上の不思議な空間(人は入れない)が見られておもしろい。

岐阜のメディアコスモスでも見かけた、極小型の消火栓が目立たない裏方に置かれている。特注っぽいので一体いくらするのか不明だが、これが置いてあると伊東豊雄にあやかって建築が格上げされたように感じる。マルニ木工のSANAAチェアのように、イメージ的な投資効果は高いデザイナーズ設備だ。

展示室の裏方、サービスゾーンの物置みたいなところまで透け透けで、公共施設の概念的な透明性というものを文字通り徹底的に表現したように見える。最近の庁舎でよく見かけるように、スタッフの職務スペースも丸見えなのは落ち着かないと思う。運営側としては、あまりありがたくない設計かもしれない。

フリーペーパーのレベルが高い

メディアテークでおもしろいのは、新聞・雑誌フロアに膨大な量のフリーペーパーのコーナーが設けられている点だ。それこそ全国の美術館や、一風変わったローカルマガジンみたいなものがセレクトされていて、毎回収集して持ち帰るのが楽しみだ。

仙台くらいの地方都市だと、地元の大学と連携した一般講座や、町おこし的なカルチャーも併存していて興味深い。どの冊子もデザインのレベルが高いので、目利きのキュレーターがいるのか、メディアテーク効果でチラシのクオリティーも底上げされたのだろう。

近くに住んでいれば、毎日図書館に通って映画を観たり本を読んだりエンジョイできる。岐阜のメディアコスモスと同じで、文化レベルの高い建築ができると長期的に一番恩恵を受けるのは近隣住民だろう。何度も通って施設を活用すれば、払った税金の元は取れそうな気がする。

同じ戦略で、伊東豊雄チルドレンな若手建築家に設計依頼して、各県にメディア○○という複合施設をつくればいいと思う。大阪ならメディアユニバース、長崎ならメディアテンボス。名前もメディアテクニカ、メディアプレーヤー、何でもありだ。

経済的・構造的な合理性はともかく、非ラーメン架構の新様式でシリーズ化すれば、100年後に全部まとめて世界遺産登録されるだろう。