1986年『トップガン』に学ぶ、青春映画のストーリー展開と演出法

トム・クルーズ主演の80年代映画、『トップガン』のレビュー続き。空中戦ディティールの考察に引き続き、ストーリーや演出要素を分析してみたい。

(以下ネタバレ)

ストーリー概要

『トップガン』のストーリーを振り返ってみよう。サプライズとか、しみじみ考えさせられるという複雑な要素は一切ない。むしろ「青春映画・冒険映画というのはこうやってつくるのだ」という、教科書のように学ぶことができる。

①起

戦闘機の操縦能力とセンスはピカイチだが、自信家で素行に問題の多いマーベリック(トム・クルーズ)。実戦で廃人と化した同僚クーガーの後釜として、ひょんなことから相棒グースと一緒にトップガンというエリート養成機関に送り込まれる。

②承

訓練学校のエリートの中でもめきめき頭角を現すマーベリック。美人教官のチャーリーにアプローチして関係を持つことにも成功する。あとはライバルのアイスマンを叩きのめし、トップガンをトップで卒業すれば、栄光のキャリアを築けるはずだった。

③転

訓練中のトラブル(アイスマンの策略?)で墜落・脱出、グースが死んでしまう。一応事故ということで片付き、歴戦の勇士バイパー教官に励まされるが、自責の念にさいなまれたマーベリックは学校を去ってしまう。

④結

同じくパイロットで、天才とうたわれた父の真実をバイパーから告げられる。かろうじて卒業式に出席したマーベリックに、その場で緊急出撃の命令がくだる。実戦に戻ったマーベリックは迷いながらも本領を発揮し、因縁のアイスマンを助けともに戦果を収めてヒーローとなる。ついでにチャーリーともよりが戻る。

天才パイロットの挫折と成長

主人公のマーベリックは無頼漢に見えて、本当の実力を出せるのは「味方を助けるとき」。あれほど学校でいがみ合っていたアイスマンの窮地を救い、さらに彼にも敵を1機撃墜させて、花を持たせる配慮を忘れない。

孤高の天才パイロットが、友人の死やライバル・恋人との出会いを通して、協調性やチームワークを学んでいくストーリーといえる。トップガンの裏には、「誰かほかの人のための方が頑張れる」というメッセージが秘められている。

サブ演出要素

上記のシナリオを盛り上げるために、いくつか小技が仕込まれている。

バイパー教官の容姿

まずマーベリックがトップガン養成校で出会う鬼教官バイパー。鼻の下のヒゲ、短髪で細身の精悍なスタイルは、ヴィム・ヴェンダース監督が『ハメット』で描いた探偵を彷彿させる。

この容貌により、「紳士的で頼れるハードボイルド先輩」というステレオタイプなイメージを醸し出している。冒頭・終盤で登場する空母の司令官が、これと対照的な「太っちょのハゲ」なのは、バイパーを引き立たせるためだ。

陽気な相棒グースとその家族

また、相棒のグースはときどき無鉄砲な主人公をたしなめるが、基本的に陽気でユーモアにあふれるナイスガイ。さらに輪をかけて陽気なワイフと子どもまで学校に呼び寄せ、殺伐とした訓練の雰囲気をやわらげる。

これらはあくまで、マーベリックの挫折と復活を描くための演出といえる。しあわせ絶頂なグースを描いた直後に事故死させ、その妻と子も路頭に迷う。

物語の冒頭でクーガーが戦闘不能におちいった理由は、まさに「後に残された家族」というプレッシャーだった。それもグースの死を印象付けるのに役立っている。

細かいツッコミ

さらにストーリー展開の無理やりっぽい部分にも、突っ込んでみる。

マーベリックの父

マーベリックの父親も凄腕のパイロットで、国家機密とされた謎の死因。そして母親もすぐ死亡(暗殺?)。そんな伏線エピソードが、物語の中盤から唐突に差し込まれてくる。

主人公がやさぐれて、いつも無茶する理由はこれ。そして半分は謎を漂わせて、チャーリーを口説く文句にもなっている。

ストーリーの終盤でバイパー教官が実は父の戦友だったと判明し、本当の死因(見方をかばって犠牲になった)をマーベリックに明かす。実に都合が良い。

ラストの実戦

その後、さらに都合の良いことに卒業式で非常事態が発生する。このまま訓練校の学園ストーリーとして模擬練習で終わってしまうなら、戦争映画のマニアでなくても欲求不満で仕方ないところだった。

パーティーシーンから「24時間後」という設定で急に場面が切り替わり、冒頭に出て来たインド洋上の空母へ。そしてまた夕暮れのたそがれ時、黄色い夕陽をバックにF-14トムキャットがもったいぶって出動する。

1980年代、冷戦末期に米国・ソ連の間で『トップガン』のようなドッグファイトが行われたという史実はさだかでない。フィクションとして、こうした「大きな噓」は許されるというのが定説だ。

トム・クルーズの不敵な微笑

そのほかどうでもいい部分としては、トム・クルーズのポーカーフェイスはこの時代から健在だ。シリアスなシーンでも「真面目なのかにやけているのかわからない」思わせぶりな表情。

『ミッション・インポッシブル』シリーズのスパイ映画では効果的といえるトム・クルーズの個性。これがトップガンだと、マーベリックを自信満々の不敵なパイロットとして表現するのに役立っている。

個人的には、相棒グースが死んだときでさえ、マーベリックが本気で悲しんでいるように見えなかった。『バニラ・スカイ』のような人間ドラマでも、なぜかトム・クルーズが出てくると腹に一物ありそうに見えてしまう弊害がある。

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