セイコードルチェSACM171、これひとつあれば他に時計はいらない

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時計に対する価値観は千差万別だが、強いて「万人受け」する無難な製品を挙げてみようと思う。会社で服装自由と言われても、「とりあえずスーツを着て行けば間違いない」というような感じのオーソドックスな時計だ。

セイコーのドルチェSACM171。『甘い生活』をイメージさせる退廃的なネーミングとは裏腹に、きわめて質実剛健な実用時計。実売3万円台で買えるこの高性能クオーツが、

  • コスパ(性能と価格)
  • 他人に与える印象
  • 実用性・保守性

という多面的な評価軸をバランスよく満たしている。女性版のエクセリーヌも似たような位置づけだ。

仕事でもカジュアルでも、そして冠婚葬祭にも通用するドレスコードをそなえたうえ、上位のクレドールやグランドセイコーに匹敵する年差精度。もう「これ一本あれば他に時計はいらない」と思わせるような、ミニマリスト向けのアイテムともいえる。

ドレスウォッチの条件

現代社会において、時計は実用品というよりファッションだ。そのため、性能やムーブメントのこだわりよりまずは外見。「他の人にどう思われるか」を最優先に選んで間違いない。

ドルチェSACM171の外観に関する特徴として、以下の3点が挙げられる。

  1. 円形ケース
  2. 白文字盤(正確には銀色で若干ラメ入り)
  3. 時分秒の3針(カレンダーもクロノもなし)

この条件がそろっていれば、いまの日本で「着けていて恥ずかしい」という場面はない。葬式でも結婚式でもOK。上司や取引先の受けも良く、そして時計マニアにも「わかっている」と一目置かれる万能デザインだ。

ベルトの印象も大事だが、そちらは「バネ棒外し」という工具で簡単に交換できるオプション品。革でもメタルでもナイロンでも、場面や気分に合わせて好きに選べばいい。

時計に関してクオーツであれば、スーツのように動くにくいとか、クリーニングが面倒というデメリットもない。維持費は2~3年に一度の電池交換代程度。

品の良いドレスウォッチを1本押さえておけば、あらゆるシーンで使いまわせる。基本的に上記の条件を満たしていれば、着ける人の年齢も問わない。

適切なサイズ感

ケースの直径は33.5mm、厚みは5.3mm、重さは26g。いまどきの時計としてはデカ厚ブームに流されず、ドレスウォッチとして標準的なサイズ感を守っている。クオーツとしてもかなり薄型な部類だ。

最近ようやく時計が小型化する(元のサイズに戻る)きざしが見えてきたが、それでも35mmを超えるとオーバーに感じる。体格や手首の太さによるのかもしれないが、その点ドルチェのケースサイズは平均的な日本人男性にフィットするよう研究されている。

ドルチェはビックカメラやヨドバシカメラなど、家電量販店の時計売り場で試着できる。むしろデパートの宝飾品コーナーでは扱われていない。

一度着けてみれば、その薄さと軽さを実感できる。機械式の重い時計から着けかえると、まるで手首に紙を載せているくらいの開放感。巨大なダイバーズウォッチが流行ろうとも、一般用途の時計にとって「軽さは正義」。着用時の負担は言うまでもなく、落とした際のダメージも少ない。

文字盤・ケースのデザイン

トルクの弱いクオーツなのに大き目のドルフィン針。アワーマーカーはシンプルなバーインデックスで、適度な立体感が視認性を向上させている。外周には分秒表示の点も打ってあり実用的だ。

ケース素材はステンレスだが、風防は傷のつきにくいサファイアガラスで内面無反射コーティング付き。定価5万の時計としては、標準的なスペックだろう。防水性能は日常生活用程度だが耐磁性能はそなえている。

セイコーのデザインルールに従った、ラグと曲面でつながる独特のケース形状。外観的には、GSロゴのない価格1/10のグランドセイコーと言っても過言ではない。ムーブメントの品質がほぼ同じなら、あとは外観とブランドイメージの違いしかない。

むしろGSがデカ厚化して高価格帯を突っ走る中、ドルチェの方が正気を保っているといえる。少なくともこの先50年は使える普遍的なデザインだ。

もうクオーツの精度や技術は完成の域に達していると思う。よほどの技術革新や文化的なパラダイムシフトがなければ、50年後もアンティークとして通用するだろう。

ブランドとケース素材、生産数という意味では、ドルチェの資産的価値は薄い。ただし、流行に合わせて買い替えなくてよいという意味では、賢い投資だと思う。

年差精度のキャリバー

ムーブメントはCal.8J41で、年差±10秒という高精度を誇る。この点だけ見れば、グランドセイコーに搭載される最高級の9F系キャリバーと同じ性能だ。

違いとしては、気密性の高さや、調整が必要な頻度くらいでなかろうか。9Fの場合は搭載する水晶振動子にエージングをかけたりテストして、さらに精度を追い込むようだ。

そこまで偏執的に調整して重さが2倍、価格は10倍とかになってしまうなら、庶民はドルチェで十分だと思う。Grand Seikoという押しの強さに魅了を感じないなら、むしろ外観がすっきりした普及価格帯モデルの方が使いまわしやすい。

SACM167、151という亜種

現行ドルチェでSACM171以外のモデルは調べなくてよいと思う。デザイン的に許せるのは、ぎりぎりSACK015までだろうか。長針短針の2針だが、これすら立体的な文字盤が余計に見えてくる。メタルブレスも真のフォーマルとは言い難い。

実はSACM171にはSACM167という同一形状の別モデルが存在し、さらにSACM151というDOLCEロゴがない亜種も出回っている。セイコーの中で「ドルチェ」というブランドは中間ランクなので、ロゴがあった方がいいのかどうかは意見の分かれるところだ。あくまで見た目のシンプルさを求めるなら、SACM151はおいしいレアモデルといえる。

一方、歴代ドルチェの中でSACM171はSEIKOロゴが一回り大きい。90年代のアンティークの方が、全体的にロゴの書体が小さく、DOLCEも筆記体だったりして奥ゆかしい。

90年代ドルチェの中でも特に注目のモデル、SACG076の説明はこちら