膝の半月板を再手術してから約1年。徐々に足回りの筋肉も戻ってきたので、気分転換に都内の低山に登るようになった。
膝にかかる負荷を緩和するため、ウォーキング用に買ったDABADAの格安ポールを山でも試してみた。トレッキングポールを使って歩くのは初めてだが、基本は平地のノルディックウォークと変わらない。
杖を突いて体を支える(横ブレを抑える)と、上りも下りも階段でも安定感を増すことができる。上半身は余計に疲れるが、膝へのダメージはだいぶ和らげられた。
実際はポールを使わない方が脚は鍛えられる。しかし長距離登山で疲労を分散させ、膝の負荷を減らすためには、役に立つアイテムだと実感した。
高尾山と御岳山で実地レビュー
今回向かったのは奥多摩の高尾山と御岳山。どちらも登山口まで電車やバスでアクセスできるが、準備体操と運賃節約も兼ね自転車で向かうことにしている。
昨年購入したDABADAのポールは3分割できるタイプなので、縮めれば実測34センチ程度になる。
この長さなら中型サイズのバックパックに丸ごと収まるので、自転車で運ぶのも簡単だ。
高尾山と御岳山には数年前の手術の後も、リハビリのため足しげく通った。どちらも山腹までケーブルカーが通じているため、足の具合が悪くなればエスケープできる。
麓からそのまま公共交通機関で帰宅できるので、トラブルの際に安全性が高い。山頂やケーブルカー駅には売店や自販機があるため、補給にも困らない。
高尾山の1号路、御岳山の登山道はどちらも路面が舗装されている。きつい段差や急勾配もないので、手術後の足慣らしにはぴったりだった。
DABADAポールの特徴
DABADAのポールは構造の複雑な3分割方式なのに、たったの4,000円で買えた。
最もコンパクトな折りたたみモデルは品切れ中だが、アンチショック機能付きの伸縮式タイプはまだ販売されている。
低価格なわりに、先端ゴムが丸型トレッキング用・船型ノルディック用の2種類ついてくる(しかも丸型は2セット)。いろいろなシチュエーションで使えて、初めて買うポールとしては十分満足できた。
だたし中国製で値段が安い代わりに、加工の精度は甘い。
2本のうち1本のストッパー用丸型ボタンがおそろしく固く、分解する際に毎回苦労する。女性の握力・腕力では普通に組み立てるのも難しいと思う。
逆に先端ゴムは固定が弱く、使っている最中にクルクル回転してしまう。特にノルディック用のゴムは方向が決まっているため、歩行中に杖を持ち替えて向きを合わせるのにストレスが溜まる。
ほかの製品を使ったことがないのでわからないが、ノルディックウォーキング用のポールとしては致命的な欠陥に思われる。しかしそのおかげで「ゴムの摩耗していない部分を地面に突く」という裏技が使える。
折りたたみポールの使い方
上部の長さ調整用レバーは締め付けがゆるく、使っている途中で勝手に短くなってしまうことがある。
これはレバーの横にあるネジを回せば、圧力を高められることがわかった。ロードバイクのホイールに付いているクイックリリースと同じ仕組みだ。
それ以外の部分は特に不満がない。先端近くの丸型突起がストッパーになるので強度が不安だが、よほど無理して荷重をかけない限りは問題ない。そもそもポールに思い切り体重を乗せるような使い方はNGだと思う。
久々に分解すると、アルミの差し込み部分が黒く汚れてホコリが溜まっていた。注意して組み立てたが、どうしても手が煤けて汚れてしまう。
ウェットティッシュで拭ったが黒い汚れは容易に落ちない。完全にきれいにするには、研磨剤入りのスポンジと洗剤でゴシゴシこする必要があると思う。
丸型キャップは石畳で滑る
まずは高尾山の1号路でポールを使ってみた。先端ゴムはトレッキング用の丸型をセットした。
1号路の序盤にある石畳は、初っ端から勾配がきつい。DABADAの丸型ゴムは先端がツルツルしていてグリップは効かない。
よく見るとこれはゴムというより普通の黒いプラスチックだ。斜めに突くとつるつる滑って仕方ないので、ポールは役に立たなかった。
路面が粗い仕上げの石材・セメントに変わると、ようやく杖をつけるようになってきた。それでも傾斜がきついとたまに滑る。
オフロードでも落ち葉や石ころで杖の先がぶれることがある。地面が柔らかいところでは、先端のゴムキャップを取り外して石突きを露出させるとよいのだろう。
ゴムの着脱には時間がかかり手も汚れるため、登山中はあまりひんぱんに行いたくない。
船型キャップのままでもいける
2回目は高尾山の蛇滝コースでポールを使ってみた。
先端ゴムを付け替えるのが面倒だったので、ノルディック用の船型キャップのまま山でも使ってみた。結果的には変形ゴムのままでも接地に支障はない。
手元のゴムはすでに使い込みすぎてゴムが摩耗し、内部の金具が露出している状態。
普段のノルディック・ウォーキングでも、グリップ力が失われているので前後逆に突くようにしている。船の先端部分はまだゴムが残っているので、逆向きに突いた方が地面に引っかかってくれる。
金具が出ているゴムでは、石畳や階段でカンカン鳴るうえ路面を傷つけてしまう。そのためトレイル以外では杖を突かないように気をつけた。
上り下りにおけるポールの長さ調整
高尾山の様々な傾斜で、トレッキングポールの使い方を工夫してみた。
上りは杖を短めにセットして、体のやや前方に突くとスムーズに歩ける。逆に下りは少し長めにして、斜面の下側に突くと安定する。
平地歩行の最適長さに対して、上り下りで長短3センチくらい加減するとちょうどいい感じ。実際は多少長かったり短かったりしても、体の使い方でカバーできる。
荷重分散より横揺れ防止に効果大
山で初めてトレッキングポールを使った感想としては、膝にかかる負担がだいぶ軽減される。
杖に乗せる体重はせいぜい全体の5~10%ほど。あまりにのしかかるとバランスを崩してかえって危険なうえ、手首や腕も疲れる。
ポールで荷重を分散させることは意識せず、「接地ポイントが増えて左右にぶれにくい」安定性向上のツールと捉えた方がよさそうだ。
傾斜面において自分の足だけで立つのと、両側に杖を突いて支えるのとでは膝の負荷が変わってくる。横揺れを防ぎバランスを保つために、余計な筋肉を使わなくて済むという感じがした。
たとえるならウェイトトレーニングのデッドリフトで、ダンベルよりバーベルを使う方が重い荷重を持ち上げられるのと同じ原理。横方向の自由度が減ると、その分、筋肉は上下運動に特化してパワーを出すことができる。
ただしポールを持つ腕や上半身は余計に動かすことになるので、全身の運動量は増える。「ノルディックウォークでエネルギー消費量が20%増える」といわれるのと同じ。
上体のひねりが加わるのでバックパックの揺れも大きくなる。面倒でもチェストベルトを締めた方がフィット感は増す。
トレッキングポールの威力を見直す
今まで登山やトレランを楽しんできて、トレッキングポールは余計な荷物だと思っていた。
あれば足しになるかもしれないが、装備が重くなり両手がふさがるデメリットは大きい。持っていると見た目がプロっぽくてかっこいい、そんなファッション用のアイテムでないかとすら考えていた。
ウルトラライト志向として登山中の荷物は1グラムでも減らしたい。まったく興味を持てなかったポールだが、膝を痛めてみると評価が180度変わった。
平地でノルディック・ウォーキングを練習して、同じ感じで山道を登ってみる。左右のブレを減らせて上半身から推力も得られるため、大腿四頭筋からハムストリングスまで脚全体の筋肉疲労をやわらげられる。
さらに下りでは手前につんのめる姿勢をポールで緩和できるため、思った以上に足の負担を減らすことができる。
急な下りでつま先が痛くならない
ためしに御岳山の急勾配をポールなしで歩いてみたが、膝を保護するためには常につま先着地。ふくらはぎをクッションに使って抜き足差し足そっと歩くような感じになる。
この不自然なポーズを続けるとシューズの中でつま先が先端に当たるため、下山後に親指の爪が黒くなってしまった。
ハイカットのトレッキングシューズを履いていれば、足首全面で体重を支えてつま先にかかる負荷を減らすことができる。
昔は富士山の砂走を下るためにKEENの大型シューズを持っていたが、よく行く奥多摩~丹沢の低山ハイクではオーバースペックなため、処分してしまった。
普通のスニーカーやローカットのトレランシューズだと急斜面の下りでつま先が痛くなるのが悩みの種だ。
ここで下りにポールを使うと、ふくらはぎ及びつま先の負担を減らすことができる。膝痛対策というよりも、つま先保護の効果が大きいと感じた。
大きな段差を下るのが楽になる
また高尾山の薬王院、御岳山の頂上付近に出現する長い階段でもポールは威力を発揮した。
左右の足運びに合わせてリズミカルにポールを突くと、普通に上るより足やお尻が楽になる。杖を使って体重が軽くなることはないが、横揺れが防げるので筋肉疲労を抑えられる。
トレイルの下りで大きな段差がある場面でも、補助的にポールを使うと安心感が高まる。今まではどうしてもジャンプするしかなかったような段差でも、先に地面にポールを突くとゆっくり片脚を下ろせた。
縦走中のポール長さ調整が面倒
ひとつの山を登って下るだけなら、ポールの長さは固定でいける。上りは短め、下りは長めにセットするのがセオリーだ。
しかし尾根沿いにアップダウンを繰り返すような場面では、坂を超えるたびに長さの微調整が必要になってしまう。結局固定長でやり過ごす方が楽になり、レバー/ツイスト式の長さ調整機能は使わなくなる予感がした。
平地用の標準的な長さ(グリップを握って肘が直角になる位置)に設定したポールでも、慣れれば登りも下りも難なくこなせる。
長さ調整機能を省けば軽量・安価で、故障のリスクも少なくなる。そしてレバーがない分、見た目もすっきりして凹凸がなく、物が引っかからない。
折りたたみ・固定長のポール製品
持ち運び用に折りたたみ式で、長さ固定のトレッキングポールを探したところ、以下のような製品が見つかった。
- ブラックタイヤモンド:ディスタンスカーボンZ…カーボン製、長さ100~130cm、重量339~400g
- ブラックタイヤモンド:ディスタンスカーボン…カーボン製、長さ100~130cm、重量190g(120cmの場合)
- ブラックタイヤモンド:ディスタンスZ…アルミ製、長さ100~130cm、重量339~400g
- シナノ:フォールダーFP…カーボン製、長さ110~125cm、重量350~380g
- モンベル:U.L.フォールディングポール…アルミ製、長さ100~120 cm、重量278~304g
各社製品の長さ比較
固定長ポールで品数豊富なのはブラックダイヤモンドのディスタンスシリーズだ。FLZでなくZという型番に相当する。
ただしトレラン用の超軽量ディスタンスカーボン以外は10センチ刻みのサイズ選択になるので注意。シナノは5センチ刻みだが、モンベルのU.L.シリーズは100/105/113/120cmという変則的なラインナップになる。
価格的にはモンベルのアルミ製U.L.フォールディングポールが最安。1本単位で買えるので、壊れた際に補充することができる。
ブラックタイヤモンドのディスタンスZもアルミ製で安価なうえ、黒×シルバーのカラーリングが渋くてカッコいい。
ただし自分の最適長さ115センチがないので、比較的近いモンベルの113センチか、シナノのフォールダーFPを選ぶことになると思う。
長めのグリップで持ち替えに対応
トレッキングポールの上位製品では、微妙な坂で握り長さを替えられるようグリップが長めになっている。
具体的にはLEKIのエルゴンサーモロング、Black Diamondのミニエクステンショングリップなど。シナノのフォールダーシリーズも同様。
モンベルU.L.シリーズのグリップはシンプルな円筒状だが、廉価品より長めに設計されている。
この機能を使って登りは短く握るとしたら、全体の長さは心持ち長めのモデルを選んだ方がいいのかもしれない。
そのあたりの感触は、長さ調整できる安いポールを使って考えるのがいいと思う。次回はアップダウンのある金毘羅尾根でも歩いてみて、登山用ポールの買い替えを検討してみたい。
ノルディックポールの2本目を注文
DABADAのポールは値段相応で特に不満がない。しかし摩耗した先端ゴムを買い替えるよりは、別の製品を試したい気がしてきた。
ノルディック・ウォーキングについては半年以上練習して感触がつかめてきた。DABADAのポールは3段式なため先端部の直径が細く、継ぎ目も多いせいか地面に突くと微振動する。
カチャカチャいう音も気になるので、2本目は上級者向けの固定長・カーボン製のポールを選んでみた。
ナイト工芸のセレクトカーボン
ハイエンドなカーボン製品になると、どのメーカーでもグローブに簡易着脱の機能がついてくる。
DABADAには単なるストラップしか付属しなかったので、専用グローブを使ったノルディックウォークを試してみたい。
長さ固定のポールは数が少ないが、構造がシンプルなので安い上に軽い。ナイト工芸の製品なら、日本製のカーボンポールでも定価1万円以下で手に入る。
長さは吟味して115センチのセレクトカーボンを選んだ。受注生産らしく、注文してから発送は一週間後。
届いたらDABADAとの違いをレビューしてみたい。廉価な固定式ポールとはいえ、値段は2倍も違う。
アルミ→カーボン、ストラップ→グローブ、長さ可変→固定長などパラメーターが大幅に変わるので、どのくらい違いを体感できるかが楽しみだ。