シェアハウスから特養まで~URの団地再生実験、多摩平を見学

長年住んでいるシェアハウスの今後について考えてみようと思い、『シェアをデザインする』という本を読んでみた。若手建築家が著名人を招いて行ったトークセッションのレポートで、住環境や公共空間に関するシェアリングエコノミーの先進事例が多く紹介されている。

シェアをデザインする: 変わるコミュニティ、ビジネス、クリエイションの現場

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その中でJR中央線、豊田駅周辺の団地リノベーションが取り上げられていた。旧公団の団地5棟を多世代対応のシェアハウスや集合住宅に改修した事例だ。調べてみると豊田とは愛知県の豊田市ではなく、東京は八王子のひとつ手前にある駅の名前だった。

若年層向けのシェアハウスは、株式会社リビタが管理する「りえんと多摩平」という物件。以前から気になっていて、たまにウェブサイトで空室がないかチェックしたりしていた。再開発の状況や生活の様子については、東京R不動産が出版している団地特集の本にも掲載されている。

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他の集合住宅や高齢者向け施設も含め、今後の参考になるかと思い、多摩平団地のリノベーション事例を見に行ってみた。

建築士試験に出題されたシェアハウス

りえんと多摩平について知ったのは、一級建築士の学科試験過去問題だ。計画分野の事例問題として平成26年に出題されている。

りえんと多摩平

りえんとは平成23年に竣工した物件だから、3年後の試験で取り上げられるのはかなり早いケース。それほどユニークで、業界に周知させるべき案件だったということだろう。

国家試験に採用された元公団住宅の改修物件ということで、他の民間シェアハウスとは一線を画する風格のようなものを感じる。

りえんと多摩平の駐輪場

東京郊外で空間的な余裕もあり、植栽やウッドデッキなど共用部はぜいたくにデザインされていた。ベンチと一体化した駐輪スペースもかっこいいのだが、実用性を考えると一か所にまとめて屋根付きにしてもらった方が、自転車が傷まないで済む。

相場より少し安い賃料

現在募集が出ている空室は、賃料・共益費込みで5万円台から。角部屋・ベランダ付きなど、条件によって家賃は数千円変わってくるようだ。

プラス1万で1階のアトリエ付き居室が選べるのはおもしろい。運用ルールは不明だが、街路に面したウッドデッキと連続しているので、ギャラリーやショップとしても使えるとよさそうだ。

2棟あるうち北側の244号棟全体および道路側242号棟の半分は、中央大学の国際寮として占有されている。するとハウス住民の年齢構成は10~20代が中心と推測される。

りえんと多摩平

シェアハウスの賃料相場からすると、このエリアではわりと安い方でないかと思う。立川に2駅で出られるので、青梅線沿線よりも都心へのアクセスは便利だ。

築年数は古いが…

ただし居室は団地の3Kを3分割したかたちなので、間仕切り壁の厚みや遮音性は気になる。界壁が法令通り小屋裏まで達しているかどうかなど、天井裏をのぞいてみなければわからない部分もある(レオパレス21の施工不良問題)。

見た目はおしゃれで気持ちよさそうなシェアハウスだったので、相場より安いとすれば何か理由があるはず。団地再生を狙った官製シェアハウスということで話題性もあり、むしろプレミアムが上乗せされてもおかしくない物件だ。

りえんと多摩平

安いのは単に築年数が古いということだろうか。団地が建てられた1960年なので、スペックからすれば築59年のかなりヴィンテージなマンションといえる。

一般的にRC/SRC造マンションの法定耐用年数は47年。しかし鉄筋コンクリートの状態が良ければ、まめにメンテナンスして100年以上持たせられる可能性もある。そこはURが手がけた物件なので、丁寧に改修工事されていることだろう。

学生寮から特養まで揃う団地

多摩平団地のリノベーションについては、UR都市機構の「ルネッサンス計画2」という資料で詳しく説明されている。

多摩平の歴史

実験に用いられた5棟のうち、シェアハウスに転用されたのは2棟のみ。その他1棟は「AURA243」という菜園付き集合住宅、2棟は「ゆいま~る多摩平」というサ高住に転用されている。建物を借り受けて運営する事業者もそれぞれ異なる。

多摩平の特養

今年4月には実験区画の北側に、新築の特養もオープンした。現在の多摩平団地における実験区画には、以下の5つの集合住宅が並んでいるのが特徴といえる。

  1. 大学の学生寮
  2. シェアハウス
  3. ファミリー向け賃貸
  4. サービス付き高齢者向け住宅
  5. 特別養護老人ホーム

駅と病院、大型モールも徒歩圏内にあり、都心への通勤も不可能ではない。まさに「ゆりかごから墓場まで」といえる団地シティー。ここで生まれて一生を終えるのが幸せかどうかはわからないが、コストも含め住環境としてはバランスがよいと思う。

団地再生の先駆的事例になるか

URの団地再生事業としては、多摩平より先に東京都東久留米市の解体予定棟を用いた実証実験が行われている。ここで検証されたバリアフリー化の技術(外廊下とEVの新設)が、上記のサ高住2棟に適用されている。

多摩平団地のエレベーター

昔つくられた団地の中には、4~5階建てでもエレベーターがない物件がざらにある。高齢になって足腰が弱ってくると、EVの有無はまず気になるところだ。

一連の実験がうまくいけば、全国にある老朽化した団地のモデルケースになるだろう。もしかすると多摩平は、かつての同潤会アパートのように歴史に残る集合住宅になるかもしれない。

ただし実際に現地を訪れてみて、多摩丘陵エリアの団地としては立地が恵まれている方だと感じた。もう少し東に行けば、駅から遠く急坂だらけで不便な団地がいくつもある。団地内の店舗も賑わっているように見えないので、事業者が撤退したら一挙に買い物難民になるリスクがある。

多摩平団地

立地の不便な老朽団地は車移動を前提として思い切り賃料を下げるか、リノベーションするより解体して野山に戻した方が合理的な気もする。

今は人口が減って空き家問題も深刻なので、全国の団地をコンバージョンして住戸を供給する必要はないだろう。多摩平のような条件のいい物件だけ残して事業をコンパクト化すればいいと思う。

共用部に食堂や菜園あり

ゆいま~るの食堂は居住者以外でも利用できるようだ。ただし昼・夜の定食が740円~、コーヒーは300円と決して安くはない。それなら近くのイオンモールに行って、フードコートで食べた方がリーズナブルだ。

ゆいま~る食堂のメニュー

共用部としてはAURO243に付属のレンタル菜園がユニークといえる。都市部で畑を借りようと思っても、家から遠くて手入れがおっくうという話はよく聞く。余剰スペースを生かして敷地内で畑を借りらえるのは便利だ。

多摩平団地の貸し菜園

訪れたのは平日の日中だったので、共用部のウッドデッキや東屋でイベントが行われている気配はなかった。もしコンセプトどおりに多世代が混ざって、BBQや餅つきのイベントが継続されていたら興味深いと思う。実際のところ、若者が休日にモールや立川に出て遊ぶより、近所の高齢者やファミリー層と交流する方を選ぶかどうかは未知数だ。

その他、団地の各棟から利用できる共用設備としては、大浴場や温泉があればうれしいと思った。シェアハウスの住戸部分に共用のシャワーはあるが、浴室は撤去されている。たまに湯船につかりたくなったら、団地内の銭湯を都度利用できれば便利だ。

イオンモールのラウンジが豪華

団地と駅の中間には大規模なイオンのモールがある。スーパーとフードコートをはじめ、無印良品やGU、ダイソー、本屋や郵便局まで入っていて大変便利だ。

多摩平のイオンモール

2014年にオープンした新しい施設とあって、株主・ゴールドカード限定のラウンジもきれいだった。受付の豪華さもさることながら、ラウンジに窓が付いていて外の景色を眺められるというだけで、ほかのイオンラウンジより恵まれている。

多摩平のイオンラウンジ

もし多摩平で暮らしていたら、毎日イオンラウンジに通って無料のコーヒーをいただきつつ新聞を読みたいと思う。スペースは広いが人気があるのか、ラウンジは30分の時間制限が設けられていた。

多摩平のイオンラウンジ

イオンという大型商業施設があるだけで、近隣エリアの価値がアップしている。普段の買物はここでほとんど間に合うし、凝ったものが欲しければ電車で八王子や立川に行けばよい。新宿や東京にも中央線で1時間もかからず出られる。

同じ沿線で高尾にできた高層マンションが人気だが、賃料相場的に住める人は限られる。庶民も暮らせるリーズナブルな住宅を供給するという面で、URの団地再生事業には期待したい。