『超ソロ社会』レビュー、未婚率増加の真因とソロ充の深層心理に挑む

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ブックオフに古本が安く出ていたので、買ってみた荒川和久氏の新書『超ソロ社会』。少子高齢化と同時進行する未婚化、単身世帯増加の減少について、現状分析と未来予測を提案している。

未婚化に対する「個」の分析

アカデミックな「群」としての統計・社会学的な分析だけでなく、「個」としての「結婚しない心理」まで突っ込んで議論されている。新聞によく出る生涯未婚率や出生率のグラフよりも、「なぜ結婚しない/できないのか」という理由の方が個人的にも気になる。

例えば行政出身の研究者が書いた『地方消滅』というベストセラーでは、少子高齢化の現状と、表層的でいまいち説得力のない対策しか提案されていない。未婚の問題については、結婚しない個人の心理、結婚を支えていた社会システムの崩壊まで取り上げている本書の方がずっとおもしろい。

また、著者が広告代理店の博報堂所属なので、今後増加が見込まれるソロ充な男女、単身世帯の消費行動・市場分析、商品・サービス設計のアドバイスも盛り込まれている。

何年か前、高齢化にともなうシニア市場がもてはやされた際は電通総研が旗振り役だったが、ソロ社会については博報堂が一手先んじているようだ。消費者向けのマーケティングに関わる人なら、ぜひとも押さえておきたい一冊である。

最後の方は「ソロで生きる力」という自己啓発書のような内容になっている。妙齢の単身者で多少なりとも結婚のプレッシャーを感じている人は、読めば多少勇気づけられる部分が出てくるかもしれない。

20年後、2人に1人は独身?

まず本書の大前提となる独身者割合の統計予測を検証しよう。本書が出版された2017年から18年後の2035年が、約20年後の未来と想定されている。

国立社会保障・人口問題研究所推計により2035年の15歳以上の人口に占める独身者率は男女合わせて約48%と予測されている。簡単にまとめると「約20年後、人口の半分が独身」という衝撃的な事実だ。

しかし、この48%の内訳には未婚者だけでなく、離婚や配偶者死別による独身者も男性9.2%、女性26.1%含まれる。なので、48%もの人が「生涯未婚」というわけではない。15歳以上の未婚者率としては、男性35.1%、女性24.6%が正確な数値だ。

人口構成比として男性の方が多いこと、また女性の方が長生きするので夫が先に死ぬ率が高いこと、そのために未婚者と離別死別者で男女比が逆転している。

男性の方が婚活に不利

著者は「婚活はマーケティングである」と言い切っているが、20~50代で男性が約300万人、女性より余っているという事実は看過できない。購買活動にたとえれば、絶対に商品を買える可能性のない層が300万人もいるわけだから、そこに該当する男性はどれだけがんばっても無駄である。

もちろん女性側の未婚率も増えているわけだから、結婚からあぶれる男性はどんどん増えるということになる。婚活市場で、「そもそも男性側は競争率が高く不利」という事実は、覚えておいた方がいい。

歳の差婚はメディアがつくる幻想

それに輪をかけて、女性の上方婚志向と、男性が「若い女性を求める」という事情がからんでくる。そりゃあ、おっさんでも若い女が好きというのは、うまいもの食べたい、お金を稼ぎたい、というのと同じ人情のように思われる。しかし有名人の「歳の差婚」ときどきメディアを賑わせるほどには、現実の女性は年上の男性を求めていない。

興味深い統計値としては、実際に結婚したカップルの平均年齢差は約1.7歳だけ男が年上。女性は平均してプラス1.06歳年上の男性を求め、逆に男性はマイナス5.52歳年下の女性を求めるというミスマッチが生じている。

45歳のファミレス店長と17歳女子高生の恋愛を描いたフィクション『恋は雨上がりのように』は、あくまでおっさん側の妄想と考えた方がいい。認知心理学的には、課題のフレーミングによりギャンブルで期待値の低いリスクを取る傾向が人間にはある。40代の普通の男性が20歳年下の若妻を望むのは、宝くじを買うようなものだろう。

専業主夫も意外と少ない

マーケティング的に逆張りを狙うなら、本書によるとアラフィフで正規社員・年収1,000万以上の独身女性と、年下の低収入男性がうまくマッチするように見える。年収の高い女性ほど独身率が高く、また年齢も上がり過ぎると逆に年下の男性を結婚相手に求めるようになる。

男性の方が年収が低く、専業主夫として活躍するとケースも最近よく耳にする。しかし、いざ自分のこととなると、世間からヒモと呼ばれそうで肩身が狭い。

「歳の差婚」と同じく「専業主夫」というのも、めずらしいからメディアがよく取り上げるという現象に過ぎないのではなかろうか。実際には男性が扶養される側の第3号被保険者というのは1%しかいないらしい。

未婚率が増える表向きの理由

さて男女ともに未婚率が増えている原因として、本書が分析するのは2点。

  1. 90年代バブル崩壊で男性側の経済基盤が不安定になった
  2. 女性の社会進出が進み、結婚しなくても自立できるようになった

1の理由は大局的には理解できるが、江戸時代や戦時中でも今より安定収入を得られたかといえばそうでもない。グローバリゼーションやIT化で、仕事の進め方や働き方自体が変わってきているので、これだけで結婚しない理由にはならないと思う。

リスクという用語は、正確には予想より上振れる可能性も含んでいる。終身雇用が崩れ、経済的に不安定になったということは、チャンスも増えるということだ。

2の理由はもっと興味深い。従来は女性にとって結婚こそがゴール、それ以外の選択肢はない状態だったが、自分で稼いで独身で暮らしていくという生き方が選べるようになった。あえて生涯年収を減らしてまで、自分より悪条件(高齢、低収入など)の男性を選ぶ必要がないのだ。

社内お見合いシステムの崩壊

3つ目の理由としては、1・2が合併した現象として、「会社内お見合いシステム」が崩壊したことも挙げられている。なかばお見合いに近いといえる「職場での出会い、上司の仲介」減ったせいで、もともと受け身な人たちが自分で結婚できなくなったという意見がある。

確かにまわりでも、同じ大学・会社内で出会って結婚する人が圧倒的に多い。フリーランスが増えると、会社という出会いの場がなくなって、未婚率が増えるだろうなというのは、容易に想像がつく。意識して男女混合のシェアハウスで暮らすとかしないと、日常的に女性と接する機会は皆無になるだろう。

男女とも結婚/独身に求めるのはお金

本書は、上記のようなマクロレベルの分析にとどまらず、個人の「結婚しない/したくない心理」まで掘り下げて議論を進めている。もっとも興味深いのは、第9~15回の「出生動向基本調査」をもとにした「独身者による独身/結婚の利点」というグラフである。

1987年から2015年にわたる調査で傾向が顕著なのは、女性側が結婚に「経済的な余裕がもてる」メリットを重視するようになり、逆に男性側は独身で「金銭的に裕福」とうメリットを重視する率が増えていることだ。

突き詰めれば、「男も女もしょせんはお金」という傾向が年々強くなっている。あらためて考えると、「自分のために自由にお金を使える」という独身のメリットは大きい。

自分は真正ソロ人間と知った

残念ながら、自分は独身貴族ジョージ・ソロスと名乗れるほど裕福でない。節約・節税趣味が高じて、経費計上用の会社を立ち上げ、年収100万以下の無税生活を続けている。

立場的には非正規雇用以下、婚活市場で相手にされないことはわかっているので、確信的ソロ人間といえる。本書に掲載されている「結婚しない男の見分け方質問」を試したら10個以上○が付き「真正ソロ人間」と診断された。

再婚する気がなく性格的にも向いていないなら、婚活するだけ無駄だし相手にも失礼だろう。女性側としても、婚活マーケティング視点から「結婚する気のない男性」は早めに見分けてスルーした方がよい。

著者は「結婚したがらない心理」を若者のクルマ離れ現象にたとえている。まさに結婚に対しても、買えるお金はあるけど必要ない、魅力を感じないから買わない、そういう心理もある。

根強く残る結婚規範

今の日本でも、生涯結婚しないことに対する世間(自意識も含む)のプレッシャーは大きい。著者はそれを「結婚規範」と名付けて批判するスタンスだが、どう理論武装しようが、「独身は負け組」と言われればそれまでだ。

  • 江戸時代から日本人は離婚・再婚率が高く、男女とも自立していた
  • 明治期に西洋的な婚姻制度を導入したのが間違いだった
  • 昭和の皆婚時代でも、5%は結婚しないマイノリティーがいた

かつて結婚できなかった5%の理由は、男女比であぶれた男性陣、社会不適合者、超貧困層、差別や病気などいろいろだろう。それが30%まで増えてきたから、さすがにマイノリティーとはいえなくなってきたのが現状だ。

自己卑下してもプラスにならないから、せめて「ぼっち」という否定的ニュアンスを含むスラングより「ソロ充」という用語を導入しようと提案されている。こういう活動で少しずつ独身者も肩身が狭くなく暮らせる世の中になっていくかもしれないが、まだ先は長いだろう。

独身者の消費による自己充足

最後に、増加し続けるソロ人間、単身世帯に対するマーケティング上の分析が行われている。「モノ(物質)からコト(体験価値)へ、さらにエモ消費(精神価値)へ」という流れは、独身者に関わらず広告業界全体のトレンドだろう。

結婚規範のプレッシャーに対する認知的不協和を解消するため、承認・達成要求を求めて消費や仕事に走るというのも一般的議論である。生涯の伴侶として、配偶者でなくモノを買うようになるから選ぶ目が厳しくなる、消費活動が高度化するというのはユニークな着眼点といえる。

腕時計や財布、鞄など高級品の雑誌特集で、「一生もの」というキャッチコピーが増えている理由かもしれない。「結婚できないので一生モノの道具を選んで心の隙間を満たそう」というのは何だか寂しいが、仕事で挫折したミドル世代が家庭や趣味にはけ口を求めるのもよく聞く話である。

まわりにも、ある程度の年齢になって会社の中でのポジションや限界が見えてくると、狂ったように趣味に打ち込みはじめる人がいる。ソロ充とは、本来結婚から得るべき充足をモノや消費で満たそうという悲しい種族なのかもしれない。

ソロ充でも結婚地獄よりはまし

橘玲がソロ充を「仕事はあるが、財産と友達がいない」と定義しているのは的を射ている。「最貧困」よりはましだが「超充」には及ばない煉獄(リンボー)のようなポジション…もっとも結婚生活の地獄も知る身としては、ソロ充の煉獄でも十分救われているように思うのだが。

結論としては、「独身でも焦ることはないよ」というのが、本書のメッセージである。それを素直に受け取れない一因が「結婚規範」の存在であるが、100年も経てば日本の人口も半分に減って、小手先の婚活支援などどうでもいいという風潮になるだろう。