親知らず抜歯体験記。ドリル手術で悶え苦しみ、緊張のあまり失神

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久々に通い始めた歯医者さん。歯周病の治療がひと段落したので、近くの口腔外科を紹介してもらい、問題のある親知らずを抜くことになった。

上側の親知らずはすでに2本とも抜いてあり、今度は下側の2本。10年前にレントゲンを見て「抜いた方がよい」とすすめられていたが、放置してここまで来てしまった。

明確な痛みはないが、見えないところが虫歯になっている可能性は大。いろいろ調べて医師とも相談したうえ、横向きに埋没している2つの智歯は、早めに抜いた方がよいと判断した。

紹介先の口腔外科で受けた抜歯手術について、体験談を書いて見ようと思う。まだ片方抜いただけだが、思った以上にハードな体験だった。

初診で親知らずを抜く病院もある

近所の行きつけの歯医者さんで紹介状をもらい、2駅ほど先にある大病院の口腔外科を受診した。事前に電話したところ特に予約は必要なく、午前中に先着順で診てもらえるらしい。

なるべく朝早くに向かったが、案の定、窓口は大混雑で30分ほど待たされた。これでも今通っている遠方の整形外科に比べれば、まだましな方だ。紹介状があるため、初診の際の余計な手数料(数千円程度)は請求されずに済んだ。

最初にレントゲンを撮って結果を見ながら診察。「それでは…」ということで、さっそく奥歯の抜歯が始まりそうになった。なんとこの病院では、最初の診察でいきなり親知らずを抜くらしい

再診の手間がかからないという意味では合理的なサービスだが、まったく心の準備ができていなかった。あまりの手際のよさにおどろかされる。

その日は久々に都心に出てパーティーに参加する予定だったので、腫れたり痛みが出たりすると厳しい。麻酔でマヒした口の端から血をしたたらせながら歓談するのは、ホラーとしかいえない。

抜歯の日は会食どころでない

実際のところ、翌日の抜歯後は出血がひどく、流動食しか受けつけない状態だった。とても会食どころではなかったと思う。

初診の抜歯はキャンセルさせてもらって正解だった。次の日の金曜に抜いて、予定のない土日でゆっくり養生させてもらうことができた。

もし大学病院の口腔外科で親知らずを抜いてもらうなら、初日で抜くかどうかは事前に確認しておいた方がいい。大きな病院の口腔外科は、流れ作業で毎日何本も歯を抜きまくっている、壮絶な手術室という光景だった。

患者にとっては一生の一大事だが、医者にとってはルーチンワーク。今まで何本抜いたのかと聞けば、「おまえは今までに食ったパンの枚数をおぼえているのか?」と笑われるだろう。

下側の親知らずは片方ずつ抜く

翌日は予約といっても「午前中」というアバウトな指定。前回と同じく先着順で、また30分ほど待たされた。大病院でスムーズに診てもらいたいなら、オープン前に並ばないとダメなのだろう。

診察室ではレントゲン写真を見ながら、左右どちらの親知らずから抜くか相談した。両方同時に抜くことも不可能ではなさそうだが、ネットの体験談を見るとデンジャラスなようだ。口が両側マヒして痛み、しばらくまともに食事できないことは容易に想像がつく。

以前リハビリしながら両膝交互に手術した経験からすると、左右で行う手術は焦らない方がいい。今回は親知らずが深く埋没して、重篤な左側から抜いてもらうことにした。

斜め下を攻める親知らず

レントゲン写真を見ると、下側の親知らずはどちらも横に90度寝ている。片方はやや斜め下に生えていて、隣の奥歯の根元にめり込んでいる。

横から押された奥歯の根元は、片方が退縮して斜めに変形してしまっている。レントゲン写真で接触面が暗くなっているところをみると、ここはおそらく虫歯になっているだろうとの診断。その後の治療を考えると気が重い。

下側の親知らずが横向きに埋まった状態

何が楽しくてこんな愉快な生え方をしているのだろう。そのまま歯茎の中でじっとしていればいいものを、無駄にカルシウムを吸収して育っているのが憎らしい。英語ではwisdom toothというので、智歯とも呼ばれる親知らず。しかしまるで知能などなさそうに見える。

大人しくしていれば見逃してもらえるのに、下手に目立とうとして成長するからこうして抜歯される羽目になる。出る奥歯は抜かれる。宿主にとってもいい迷惑だ。もしかすると「親知らず」の語源は「恩知らず」だったりするのではないだろうか。

歯科医の麻酔は鉄の味

まずアシスタントの研修医さんが麻酔を担当する。いつもの虫歯治療とは違って、3回に分けて念入りに麻酔が撃ち込まれた。

2回目に刺された針は結構痛い。終わった後に台に置いてあった注射のカートリッジを見ると、結構な量の麻酔薬が注入されたようだ。治療後にもらった会計用の紙を見ると、以下のように書かれていた。

「伝達麻酔(下顎孔、眼窩下孔)エピリド配合注歯科用カートリッジ1.8mL…1管」

歯科医の麻酔はとてつもなく苦い。舌がピリピリするとか危険なレベルではないが、まさに「鉄の味」という感じだ。念入りに水でうがいして、麻酔が効き始めるまで数分待つ。

麻酔していても痛い

麻酔の準備が整うと、次は部長の先生が回って来られて抜歯を開始する。初めてお会いする感じなのに挨拶もそこそこ、ミラーを当てて状態を確認すると、おもむろにメスを当てて歯茎を切り開き始める。

口の中で何が行われているかは見えないのだが、埋没歯の取り出しは大仕事なはず。ウェブに出ていた術式の説明によると、最初に智歯の上半分をカットして取り出し、さらに状況を見ながら下半分も分割して取り出すようだ。

合計3回ドリルが出てくる場面があったので、おそらくセオリーどおりだろう。麻酔は施してあっても、何度か下あごに鋭い痛みが走る。口を開けているうえ喉に血が流れ込むので、「フゴッ」とか「ガハッ」とも言えずに、「ンッ…ンー!」と声にならない嗚咽が漏れる。

麻酔をかけているのに痛むのは、後から聞くと虫歯の影響もあるらしい。やはり第二大臼歯の側面は虫歯になっていたようで、いずれこちらの治療も必要になる。レントゲンで見た限り、こんな奥まった部分をどうやって削ったり埋めたりできるのか謎だ。

虫歯治療とは異次元の衝撃

ゴリゴリと顔面にかかる圧力、時折やってくるズキットいう痛み、どれをとっても普通の虫歯治療とは次元が違う。あまりの恐怖に全身がのけぞり、額に汗がにじんだ。気がつくと手足が空中に突っ張り、ガクガク震えていた。

最後に歯の根元の方を、てこの原理でぐいぐい引っ張る感じで取り出して抜歯は完了した。カランと音を立てて、ステンレスの皿に抜いた歯を転がす。歯の残骸は見なかったが、さながら危険な銃弾を体内から摘出したようである。

抜いた後は、切開した粘膜を縫い合わせるようだ。普通に顔の前で針を刺して糸を通すので、縫合を見ているのも結構こわい。

最後に糸を結んでいるときは、デンタルフロスで歯間を掃除してもらっているような感じになる。もう何もできず、口の中で行われている土木工事を見守るしかない。

手術後になぜか目まいがして倒れる

治療が終わってガーゼを噛み締め、お疲れ様でしたと席を立とうとしたところで、何か目の前に黒い斑点がちらつき始めた。どうも立ちくらみのひどいのが襲ってきたようで失神寸前。たまらず椅子にもたれて休ませてもらう。

次第にめまいがひどくなり、吐き気と便意も催してくる。以前ノロウイルスに当たった際に、急激に症状が出て倒れたときと似ている。上と下から漏れるのを必死に我慢しながら、全身の悪寒に耐えること数分。まさか歯の治療でこんな苦しい目に遭うとは思わなかった。

後から原因を調べると、「交感神経過緊張状態による血管迷走神経反射」という気配が濃厚だ。麻酔アレルギーのようなレアケースではないだろう。年甲斐もなくビクビクして緊張しすぎたせいで、終わった後に急に血圧が下がり、一時的な脳貧血におちいったと推測される。

歯医者でよく失神する

そういえば半年前に受けた膝の手術でも、術後に脚の圧迫を外すと同じ症状が出たことがある。医師からは「下半身に血が回って一時的に血圧が下がった」と説明されたが、今思うと同じ迷走神経が原因だったのかもしれない。

もともと血圧が低く徐脈気味なせいか、立ちくらみで失神することもある。子どもの頃、矯正治療でブラッシングの指導を受けているときも、目まいがしてへたり込むことが何度かあった。そのせいか、今でも歯医者に来ると緊張して血の気が引く。

気を失って倒れるときに受け身を取る余裕がないと、頭をぶつけることもある。脳貧血は放っておけば数分で治るが、体をぶつける二次被害もこわい。

目の前が暗くなってやばそうだったら、早めに座り込んで失神に備えるのが得策。今回症状が出たのは病院内だったので、まだよかった。

抜歯後は絶対安静推奨

歯医者のシートは頭が低いので、長く寝ていると今度は持病の頚椎性神経混症に響いてくる。首のヘルニアのため、片方の腕だけ痺れてマヒしてしまう。かかりつけの歯医者ではなるべく枕を高くしてもらっているが、治療の度に憂鬱になる合併症のようなものだ。

15分くらい横になっていたら、ようやく目まいも収まってきたので、歩いて会計に向かった。今朝は自転車で病院まで来たが、抜歯後はとても乗って帰れる状態ではない。しばらく運動も禁止なので、自転車は駐輪場に預けたまま、おとなしく歩いて電車で帰った。

その後、患部の血が止まるまで6時間近くかかったので、術後はウォーキングですら控えた方がよかった気がする。親知らずを抜いた日は病院からタクシーで直帰。そのまま家で安静にしているのがベストなようだ。

複雑な手術だが短時間で済んだ

第三大臼歯の埋まり方がイレギュラーなため、難易度の高い手術だったのだろう。そのわりには医師も助手さんも涼しい顔で、5分も経たずに摘出は終了した。治療中も他の先生に指示を出していたりして、並行していくつも手術を行っていたようだ。

人によっては麻酔が切れて打ち直すほど長時間にわたる抜歯手術もあるらしい。手術時間が短いということは、体へのダメージや侵襲も小さいはず。抜歯は時間をかけて丁寧にやってもらうより、手慣れた先生に短時間で処置してもらう方がましだろう。

治療中は痛かったが、手際よく済ませてもらえたのはありがたい。紹介元の歯医者さんから評判は良さそうに聞いていたとおり、名医に担当してもらえた気がする。

親知らずは若いうちに抜いた方がよい

本当はもっと早く、20代のうちにでも全部抜いておけばよかったと後悔している。若い頃の方が治りが早いうえ、まわりの歯が虫歯になり共倒れになるリスクも避けられる。

問題は抜歯1本につき1週間くらい顔が腫れて食事もできず、仕事にならない治療期間をどう確保するかだ。個人差はあると思うが、下側の埋没した親知らずを抜くと、かなり体に負担がかかるとわかった。

年末年始やゴールデンウィークの長い休みを地味に抜歯して過ごすのも、なんだか残念な気がする。そうして親知らずと向き合うのを先延ばしにしているうちに、治療は退職後になってしまった。

もし若いうちから健康に投資しようという殊勝な心がけの人がいたら、ジムに通って体を鍛えるより先に、親知らずを抜いておいた方がいい(抜くべきパターンの場合)。歯の治療は全然おもしろくないが、虫歯も歯周病も早期の対策がものを言う。

歯の病気は後戻りできないという意味で、体の老化を痛切に実感させてくれるパーツだ。自分はあと残り1本。またつらい思いをして横向きに埋まった親知らずを抜くかと思うと、今から憂鬱な気分になる。