motion diveの同梱映像を見て、20年前のVJ業界と機材を振り返る

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パソコンにVJソフトのmotion dive .tokyoをインストールすると、デフォルトでかなりの数のサンプルソースがプリセットされている。別に一から素材を自作しなくても、同梱素材だけで一晩プレイできそうなくらいのボリュームだ。

筆頭のGLAMOOVEは、発売当時DESIGN PLEXという雑誌のVJ特集にも出ていた有名グループだった。モノクロ~ブルー基調のシンプルなCGだが、ミックスしやすい素材でなかなかツボを押さえている。

ローランドの映像スイッチャー

10年以上のブランクがあるので、最近の業界事情は全然わからない。調べてみたら、ローランドのVJ用機材に後継機が出ているようだ。かつてのmotion dive .tokyo専用コンソールのような、省スペース型のスイッチャーV-1HDが気になる。

今どきの規格はHDMI。入力4系統で出力2系統と必要十分。やはり操作卓はアナログな方が、現場で扱いやすいのだろう。簡易的なスペックに見えて、お値段10万以上とプロ用の機材だった。

VJソフトとしてはVDMX5とResolumeが二強のようだ。どちらもライセンス料が数万円かかるので、趣味の範囲としてはさすがに投資しなかった。今どきのVJソフトはプロジェクションマッピングの機能まで搭載しているらしい。

VJのレベルも上がっている

業界が進化したと思うのは、機材やソフトの製作環境だけではない。たまに東京で見かけるVJは、製作会社のプロの人が余興でやっているのか恐ろしくレベルが高い。DVDを買って素材を見てみたが、そのままCMや映画に使えそうなクオリティーのCGだったりしてビビる。

クラブイベントでもVJはDJほど必須でない。事前の映像製作に莫大な時間と労力を必要とし、各種機材に投資も必要だ。たまに報酬がもらえても交通費程度だろう。宇川直宏くらい有名にならなければ、VJだけで生計を立てていくのは難しそうだ。

昔は東京のクラブでプレイするのを見たこともあるが、今はDOMMUNEやほかの活動で有名な人だろう。文化庁のメディア芸術祭や、アルスエレクトロニカの審査員まで務めたというから、もはやVJというより大成した映像作家という感じだ。

20年前に活躍していたグループのメンバーも、今は制作会社のディレクターや大学・専門学校の講師として活躍しているのではないかと思う。クラブVJというのは不思議なモチベ―ションで用途不明な映像制作にのめり込める人種だから、きっと他の分野でも突き抜けられるだろう。

事前編集とリアルタイム生成の2パターン

VJのスタイルとして、完成度の高い映像を単体で見せるか、複数用意したパーツを現場で合成するか、おおまかに2種類存在する。後者の方が曲に対応しやすく、バリエーションも増やせるので本筋だと思う。ただ、狭いソフト画面でいろいろ作業するのは面倒くさい。しかも狙い通りスムーズに出力するには、それなりの練習とテクニックも必要とする。

リアルタイム生成系なら、使うソフトもProcessingとかopenFrameworksとか違うものになってくるだろう。使ったことはないが、Max/MSPでも映像は出せると聞く。

曲に連動してグリッチなエフェクトを出してくるVJは、たいていこのあたりを使っていると思う。平川紀道やライゾマティクスくらいの大御所になると、自分でソフトも作っているのだろう。

たまたま横浜のギャラリーで展示を見て即買いした平川さんのDVD。今では有名人だが、当時から同じ映像作家を名乗るのが恥ずかくなるくらいのクオリティーだった。

シンプルなワイヤフレームの映像は、処理負荷も軽くて扱いやすそうだ。しかし今さら似た感じを狙ってみても、二番煎じにしかならないと思う。音楽的にも、ミニマルなハウスやアンビエントなど組み合わせを選ぶ。究極的にはカールステン・ニコライのような映像・音楽が一体化したインスタレーションを作れると、理想的なパフォーマンスになると思う。

20年前のVJ製作環境

90年代終盤は、パソコンでノンリニアの映像編集ができるようになり、VJ機材もハードからソフトに移り変わりつつあった。それまではアナログなVHSにループ収録した素材を、ビデオデッキ3台くらい積んでミックスするのが主流だった。

お金があればフェードが使えるローランドV-5など高度なスイッチャーが欲しいところだが、そもそもVJとは儲かる仕事でない。趣味で楽しむ範囲としては、廉価な家庭用映像切替機に3系統くらい映像入力して、ガチャガチャ操作するのがお手軽だ。

手元のモニターとプロジェクターに出力する映像信号の分配機も、製品を買うお金がない人は秋月電子のキットを組み立てていた。

さすがに映像制作にはPCを使う時代だったが、実写素材を扱うなら撮影機器はminiDVテープ。アナログ>デジタル>アナログと、何度も信号を変換する必要があり、スキャンコンバーターという特殊機材が必須だった。

CD-Rの容量も少ないので、PCの5インチベイに直接抜き差しする、リムーバルハードディスクというヤバい代物も流行っていた。今のHDDほど信頼性もなかったので、データが飛ぶたびに「死ねパック!」とコーデックを叫ぶ声が聞こえた。

それに比べれば、最近のメモリやディスクは映像編集に支障ないくらい容量十分なので、長らくメモリがスワップする音も聞いていない。6TBのHDDが数年デフラグしなくても快適に動いていると思ったら、最近のWindowsは自動で最適化をかけてくれるらしい。

中古で売れたスキャンコンバーター

90年代の映像製作現場で、カノープスのPower Capture Proという定番商品にお世話になった人も多いだろう。グラフィックボードと似たようなPCI接続の長尺ボードで、映像信号のアップ /ダウンコンバートを1枚でこなせる。

ビデオデッキやテレビにつなぐ黄色い映像ケーブルを差して入力すると、Motion JPEGで圧縮したVGAサイズのAVIファイルを30fpsで変換してくれる。パソコンのスペックによって変換精度はまちまちだ。

1997年に定価108,000円での発売。当時と物価はそれほど変わっていないと思うので、今ならGeForce RTX 2080のグラボを買うくらいの値段だ。お金を貯めて買ってみたら、やけにボードが長くてMicorATXサイズのPCケースに収まるか冷や冷やした。

10年後くらいに持て余してソフマップの中古に売ったら、500円くらい値が付いた。端子の規格も変わるし、マニアックなPCパーツに10万円も投資するのは気が進まない。グラボの高級機はまだ寿命が長いので、発売3年後くらいでもそこそこ売れるだろう。