3千円台から手に入る金ペン万年筆の候補~レグノ89Sを選んだ訳

数年おきに襲来する「手帳買い替えたい病」と並ぶ文具好きの症候群、「万年筆買いたい病」。そのまま行くとインク沼と呼ばれる症状になるらしいが、さいわいまだそこまで進行していない。

カランダッシュのエクリドールを買って、高級筆記具の世界は十分堪能できた。しかし、万年筆のジャンルはまだ未開拓の部分が多い。死ぬまでに一度、金製のペン先を試してみたいと思った。

しばらく海外製品の購入が続いたが、低粘度の油性インクに関しては国内メーカーのクオリティーが圧倒的に高い。趣味性の高い万年筆の分野では、パイロット・セーラー・プラチナという国内三大メーカーが有名だ。値段とスペックを比べると、ペリカンやモンブランよりずっと安価に手に入る。

次は金ペンの細字

現在持っている万年筆、カランダッシュのエクリドールXSは2万以上したが、ペン先はスチール製。極小サイズで光沢のあるロジウムメッキなど、プロダクトとしての魅力は多い。しかし書き心地は1,000円くらいの安い万年筆と変わらない気がした。

オフィスにはパイロットのプレジールを備えていたが、ステンレスのペン先で細字のため、細かい漢字を書くにはこちらの方が便利だった。エクリドールXSの万年筆はすでに在庫僅少だったので、中字のMサイズしか手に入らなかったのだ。

メーカーによる差もあると思うが、万年筆のペン先Mは相当太い。LAMYのSwiftに入っているローラーボールのM66と同じくらい、盛大にインクが放出される。ノートに書いているとベタベタになるので、乾くまで1分くらい待たないと次のページにめくれない。

趣味としては筆で書いているようで楽しいのだが、手紙でも書こうとすると文字が潰れてしまって困る。思い切り大きな字で書いても幼稚に見えるので、仕事で一筆したためる際はプレジールの出番が多かった。

次に万年筆を買うなら、エクリドールより細字を選びたいと考えている。国内メーカーなら中細MF、極細EFという中間規格もあるのが悩ましい。伊東屋の店頭に並んでいたペンで試し書きさせてもらったところ、国産なら細字のFで十分違いを感じられそうに思った。極細のEFはさすがに細すぎて頼りない。

廉価帯の金ペン万年筆

万年筆のペン先素材は、ある程度のグレードになると金を使うのが標準らしい。さらに14K、18K、21Kくらい合金の種類もあり、金の分量が多くなるほど柔らかい書き心地になるようだ。もちろん貴金属の含有量が増えるほど価格も上昇する。

海外製の万年筆だと、数万してもペン先はスチール製という商品がざらにある。書き味としては、むしろ鉄製のカリカリした感触を好む人もいるのだろう。材質の希少性が値段に反映されることはわかるが、実際の使い心地に関しては比べてみないと何とも言えない。

デザイン的にはパイロットのキャップレス、新色のマットブラックがずっと気になっているが、さすがに1.5万はかかる。プラチナの富士五湖シリーズも新作が出るたび、伊東屋の店頭で見てはうっとりするが、実売2万は下らない。透明樹脂は劣化・変色しそうな気がするし、スリップシールの代わりに着脱不便なネジ式キャップなのも気になる。

今回は国内メーカーのそこそこ評判よさそうな商品の中から、予算1万で金ペンを探してみようと思った。この価格帯でも、「初心者、新社会人向け」をうたった商品がいくつか出てくる。

プラチナの美巧とセンチュリー

プラチナの美巧はペン先14Kだが、Amazonだと3千円台から手に入る。金ペンとしては最安クラスだが、極細~細字~中字と太さも豊富にそろっている。

とにかく金製の万年筆を試したいならこれで十分と思ったが、ペン先が金色なのは好みでない。素材は金でも、銀色にメッキされている方がいいと思った。また価格2倍で6千円を超える金ペンに比べると、ペン先のデザインも直線的で安っぽく見える。

同じプラチナで#3776のセンチュリーにも、1万以下で売られている製品がある。ペン先は大きめで素材は14K、標準的なサイズの胴軸で、まず選んで間違いないと思われる。富士五湖シリーズは高根の花だが、ブラックインブラックやブルゴーニュだと6千円台から手に入る。

しかしペン先やクリップが金色なのがやはり気に入らない。センチュリーならロジウムメッキのブラックダイヤモンドに魅かれるが、人気があるのか他より若干値上がりする。

セーラーのプロムナードなど

セーラーの万年筆なら、プロムナードのシルバートリムが同じくペン先14Kで6千円台から。

上位製品のプロフェッショナルギアも、スリムタイプならぎりぎり1万以下で手に入る。

セーラーは他社に比べて万年筆のデザインに遊び心がない。どれも似た形のねじ込みキャップ式で、胴軸とトリムの色の組み合わせが違うくらい。「万年筆といえばこれだ」というくらい、スタンダードなフォルムをくずさないところに職人っぽさを感じる。

また、プロフェッショナルギアのシリーズには長さが12cm程度のやや短めな製品も出ており、コンパクトな外観にも魅力を感じる。

パイロットの定番、カスタム74

上記の2社に比べると、パイロットは最安カクノからキャップレス、エラボーなど変わり種も出ていてバリエーションが豊かだ。定価10万以上するが、十二支の模様や般若心経が彫ってある異様なペンまで存在する。

漆塗りと蒔絵に特化したNamikiという、セイコー・クレドールのような別ブランドも立ち上げている。200万以上する異次元の万年筆まであり、クリスマスプレゼントのサプライズにいかがだろう。

金魚や亀の蒔絵は不要だが、模様なしのURUSHIシリーズにはちょっと魅かれる。いずれ万年筆を究め尽して、こういう高級品をさらっと使いこなせるようになったらかっこいいと思う。

パイロットのキャップレスは、通常版が7千円台から手に入る。思いつく限り、パイロット・LAMY・エルメスくらいしか取り扱いのない特殊機構。ペン先が金だとデシモやフェルモ、あるいはマットブラックで1万を超えてしまうが、いつか試してみたい製品だ。

1万以下の金ペンであれば、カスタム74が定番だろう。14Kの標準サイズで、プラチナのセンチュリー、セーラーのプロムナードあたりの廉価版と、ほぼ同じスペックに見える。

透明軸のバージョンも安価に手に入るので、プラチナ富士五湖シリーズの練習にいいかもしれない。

ショートタイプの3本

カスタムシリーズに比べるとマイナーだが、パイロットにはステラ90S、レグノ89Sというショートタイプの万年筆が存在する。どちらもペン先14Kで、仕様によっては実売価格が1万を切るモデルもある。

もうひとつ、レガンス89Sという同じサイズの製品があるが、大理石模様のプロピオネイト樹脂で価格はずっと上がってしまう。なぜか筆記具の世界では、プラスチックの方が金属や木より高い。一見チープな透明軸の富士五湖シリーズが2万以上するのは不思議だ。

これまで短軸のエクリドールXS を使っていた経験から、短めの万年筆は手になじむ気がした。店頭で見比べても、これらのモデルは全長12cm以下で他より一回りコンパクトに見える。

ステラ90Sは金属軸で最安だが、レグノ89Sの木製胴軸が新鮮に見えた。ステラより少々高くなるがぎりぎり1万円以下で、素材の違いにより軽量化も図れそうだ。

木軸筆記具というジャンル

木軸の筆記具というジャンルでは、ファーバーカステルのエモーションが比較的廉価に手に入る。しかし、いかにも「エモさ」を売りにしたずんぐりした胴体が気に入らなかった。

カランダッシュやLAMYの異素材、高級シリーズは金額的にお呼びでない。そして国産のレグノやジャストミート、ピュアモルトという製品群は、どうにもメタルパーツの部分がダサくて食指が動かなかった。

しかし、レグノ89Sのブラックカラーはシンプルなシルバートリムとクリップ、握り手も同色の樹脂製で、木軸のわりに嫌みな感じがしない。遠目からはマットなブラックで、ステラやレガンスよりずっと地味に見える。

金属軸ステラの握り心地は、何となくエクリドールから察しがつく。レグノはさらに軽そうで、木軸の経年変化というのも興味がある。色が黒なら、手垢や汗染みが目立つということもそうそうないだろう。

レグノ89Sで新境地を開拓

カスタム74や他社の金ペン廉価製品を一通り検討したが、2本目の本格万年筆としてはレグノ89Sがいろいろ実験できそうに思われた。数年経てば、どうせまた別の万年筆が欲しくなることだろう。ペン先だけでなく、胴軸の素材も変えて経験を積んでみるのは有意義に思われた。

一か月くらい悩んだが、最終的にレグノ89Sのブラック色で、ペン先は細字のFを注文することにした。

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