ノック式水性ローラーボールの最高峰、LAMYのLM66とswift/tipo比較

記事内に広告が含まれています。

LAMYの筆記具はデザインの良さが売りだが、テクノロジーの側面について語るならLM66という傑作リフィルを取り上げないわけにはいかない。パッケージの印字はM66だが、公式サイトの型番にならってLM66と呼ぶことにする。

水性ローラーボールなのに、なぜか自然乾燥せず書き始めからスムーズ。ジェットストリームやアクロボールなどの国産低粘土油性リフィルに比べて、唯一対抗できる海外製品ではないかと思う。

LM66の装填を前提としたswift、tipoというボールペンもまたデザインが素晴らしい。safariや2000ほど人気はないが、LAMYの隠れた顔ともいえるこの2本を紹介したい。

コスパは悪いが性能抜群のLM66リフィル

ミニマリストとして、普段使いの筆記具はカランダッシュのエクリドールXSシリーズに絞ろうと決めたので、最近LAMYの出番はほとんどなくなった。それでもスウィフトとティポはLM66のおかげでインクがドバドバ出るので、たまに殴り書きしたい気分のときに取り出すことがある。

この2本は、LM66という自社製リフィルを使う点が共通している。ペン自体の機構もおもしろいが、むしろこの「水性ローラーボールでキャップ不要」というリフィルの方が革新的である。

1本定価700円以上と安くはないのに、惜しげもなく盛大にインクを放出する。太軸のくせにあっという間に消耗してしまうという不経済なリフィルだが、隠れたファンは多いだろう。

豪快なつくりのリフィルなので、モレスキンのような見かけ倒れの貧弱なノートとの相性は最悪。速攻で裏移りして、裏面だけでなく2ページ目までインクに侵食されてしまう。国産のライフやツバメ、MDノートならたいてい大丈夫だ。

LM66は交換用のリフィルも贅沢にキャップ付きで販売されている。外観もマットなステンレスで抜かりがなくロゴも映えるので、うやうやしくむき出しで使いたくなるような魅力をそなえている。

そんなことを考えていたら、ほぼ「リフィルそのもの」ともいえる世界最小クラスのボールペン、ミニモが発売されていた。

LAMYは「筆記具の小型化・軽量化」という路線にはあまり興味がないようだ。誰かLM66専用の極小リフィルホルダーのようなものをクラウドファンディングで出してくれたら、ぜひ投資させていただきたい。

スウィフトとティポのノック機構はユニークだが、それを実現できたのもLM66のおかげである。LAMYのデザイン面以外の実力も垣間見せてくれる、頼もしいリフィルだ。

収納式クリップが特徴のswift

大容量のLM66リフィルと抜群の相性なのが、LAMYの中では中堅価格帯のスウィフト。一番の特徴を挙げるとすれば、「ノックすると引っ込むクリップ」だろう。

クリップの収納機構を実現するためか、頭頂部のボタンは普通より長く飛び出ている。その分、カチッと押し込むノック時のストロークも長い。カランダッシュのボールペンで、しっとりしたノック感に慣れていると、スウィフトのペン先を繰り出すのは「よっこらせ」と一息つきたくなるような重労働に感じる。

「使用時はクリップが胴軸に沈み込むことによって、書く際に手に引っかからない」というのが表向きの説明だ。しかしスウィフトはもともと胴軸が長く、クリップも端部に寄せられているので、出っ張ったままでも手に当たるという不都合はない。

もしこの機構が長さ10cm程度のエクリドールXSに搭載されていたら重宝しただろう。XSは短さを優先したがゆえに、筆記時にクリップが邪魔になってしょうがない。

クリップが引っ込んでも、その上端に隠れていた微妙な突起が残るので、むやみに机の上で転がらないという工夫はいかにもLAMYらしい。ノトのように、ノックボタンが胴軸の中心からずれているのも、内部のクリップ収納機構を想像させる。まさに「形態は機能に従う」(Form follows function)

重量級のswiftはトイレの水没に注意

実はもう一つ、クリップ収納機構の副次的効果として、「ペン先が出た状態で胸元のポケットに差せない」という特徴がある。ただでさえインクフローのよい水性リフィルなので、ノック式になったことにより、うっかりシャツに染みをつくらないための配慮といえる。

「クリップがないので胸ポケットに引っ掛けられない」というのは納得がいくが、自分はずぼらなので、クリップで挟まずポケットに放り込むだけのことが多い。スウィフトは金属の塊のように重量感があるので、職場のトイレで便器のレバーを押そうかがんだ際、うっかり胸元から落としてしまったことがある。

1万円近くする高級ペンだが、水没して壊れたかもしれない。救出しようかどうか一瞬迷ったが、そのまま残しておくわけにもいかない。とてもここには書けないような体験をしたが、おかげでまだ現役で使えている。人からペンを借りる時はどんなエピソードがあるかわからないので、気をつけた方がいい。

ペン先とグリップ部のディティール

スフィフトの先端部分に目を向けると、製図用品のようにペン先に向かってセットバックする段差が目に入る。ぺんてるのGRAPH 1000 for PROとよく似ているが、ライフルの弾丸のように絞り込まれた先端が、リフィルと胴軸の直径をスムーズにつないでいる。

持ち手の滑り止めも、国産製図ペンのようにフニャフニャしたゴムなど貼らず、さりとてステッドラー925 25のようなヤスリ状の異素材も加えず、胴体の金属板をそのままマシンで穿孔したような仕上げになっている。穴からのぞく下地も同一素材なので、全体的に「マッシブな金属隗」という印象を打ち出すのに成功している。

自分の中でスウィフトは、サナカンが持っている長い方の重力子放射線射出装置だ。パラジュームコートや限定カラーのバリエーションもあるが、やはり艶消しのブラックが一番似合う。

パーツが頑丈で繰り返し取り外しても傷まないので、ついつい打ち合わせ中にフィールドストリップしてしまう。アルミ製のステッドラーアバンギャルドは分解してもスカスカな手ごたえだが、真鍮製のスフィフトはずっしりとした重みが手に心地よい。

スウィフトは結構高かったイメージがあるが、最近のアマゾン輸入品はなんと3千円台から手に入るようだ。

会社で他の人とかぶる可能性も低いので、常に筆箱に入れて撫でまわしたい魅惑のガジェットといえる。スウィフトはその外観から、筆記具というより小型の兵器や精密機器のように感じる。

小枝クリップの旧型tipo

スウィフトの使い心地に満足していたが、LM66リフィルの他のカラーも試してみたくなり買い増した、プラスチック製の安いティポ。現行モデルはクリップ断面が四角に変更されたが、旧モデルは森永チョコレートの小枝のような棒切れだった。

現行版はさらにクリップ頂部が反っているので、指先の引っかかりもよくなったのだろう。手元の円筒形クリップは微妙に上部がくり抜かれているが、使用中の誤動作が多かった。今回のマイナーチェンジでは、あくまで純粋な円筒形にこだわるバウハウス精神から、今どきのユニバーサルデザインに進化したという印象だ。

ティポの場合は、派手に飛び出たクリップを上下に滑らせてノックするというユニークな機構になっている。スフィフトと同じくらいスライドさせる距離が長いので、実用上は疲れるだけだ。クリップ上部を押して戻すときの「パチン!」というバネが気持ちよい。

ノック機構がクリップと一体化して外付けになったおかげで、万年筆のように頭頂部がのっぺりしている。見れば見るほど、旧型のティポはLAMYのデザインポリシーを集約したような傑作に思われる。

樹脂製なのでスフィフトに比べればずいぶん軽いが、LM66の使い心地は変わらない。インクが出すぎるし水には弱いので、契約書や申込書の細かい記入には向かないが、ラフなアイデアスケッチにはちょうどいい。潤沢なインクフローはそのまま、自重に任せて滑らせるスウィフトか、軽さ重視のティポで使い分けることもできる。

国産リフィルアダプターもLM66は対象外

最近、LAMYのペン軸に三菱のJET STREAMを装着するという、魔のリフィルアダプターが出回り始めた。サファリやアルスター用のLM16やLM63が対象で、LM66互換のものはまだ出ていないようだ。

しばらく待っても発売されないので、もしかするとLM66が優秀(あるいはswift/tipoの機構が特殊)すぎて、利益が見込めないという理由なのかもしれない。

ティポのプラスチック製は1,500円と廉価で、ライムやレッドのビビッドカラーが豊富だ。同じくアルミ製は1,700円とさほど変わらない価格で、パープルやコーヒーといった渋いカラーが揃っている。

ラミーの入門用としてはサファリがメジャーだが、持ち手がでこぼこしているので自分は好みでない。デザイナーズのダイアログシリーズに憧れるが、価格は高根の花だ。

デザイン性が高いわりに本体価格が安く、独特のLM66リフィルを装備できる。LAMYの特徴を体験するのに、最初の一本としてはティポが最適でないかと思う。