15年通った御茶ノ水のレンタルCD、名店ジャニスがついに今日閉店

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都心から引っ越してしまい、長らくご無沙汰だった御茶ノ水~神保町のレンタルCD屋ジャニス。10月に入って突然閉店お知らせのハガキが届き、もう後がないと思って最終日までCDを借りまくった。

金券目当ての大人借りカルチャー

ジャニスに行くなら、金券バックのある日にまとめて借りるのが効率的だ。年末にはセール告知のハガキが届くので、年越し前に大量レンタルするのが毎年の恒例行事だった。

それ以外は半年に一回くらい、御茶ノ水に寄ったついでに借りる程度。昔は仕事中、その方面に行く用事があれば、まずジャニス詣でも兼ねられないかと予定を調整する、ろくでなしサラリーマンだった。

たまに行ったときは金券目当てに30枚くらいCDを借りるので、そのあと数か月じっくり音楽鑑賞を楽しめる。金券の有効期限が意外と短いので、使い切るまで立て続けに通うこともあった。

場所が変わって在庫が減った

やがてヴィクトリアの9階から路地裏の路面店に場所が変わり、通うのが少し楽になった。

奇遇だが、表参道にあった際よく通ったassis onというデザイン雑貨店が、ジャニスの2階に移転していたようだ。ウェブサイトのアクセスマップに「1FはCDショップのジャニスです」と注釈があるあたり、デザイン業界でも名が通ったお店なのだろうか。

場所が移った際に、棚の配置が変わってCDを探しにくくなったのと、在庫も少し減った気がする。それでも予算的・時間的に、ここにあるすべての音楽ジャンルを網羅することはできないんだろうなと思うと、少し悲しい気持ちになる。

守備範囲のジャンルから究めて、徐々に類似コーナーも攻めていこうと、寿命が来るまであと数十年の長期計画を立てていた。その間、追加されていく新譜も含めると、とうてい終わりそうにないプロジェクトだったが、ジャニスとの別れは唐突にやって来た。

10月末の閉店1週間ほど前に訪れると、名残を惜しむファンが殺到したのか、目に見えて在庫が少なくなっていた。

普段はそれほど人気がない現代音楽のコーナーさえ、ブライアン・イーノやフィリップ・グラスの有名どころを中心に空きが目立っていた。

大変勉強になったCD帯のPOP

閉店ハガキが届いてから、とりあえず1回目の来店。根城のブログレ棚はもうマイナーバンドやメンバーソロ作を残す程度になっていたので、あえて新ジャンルを開拓してみようと思った。

ジャニスがユニークなのは、その豊富な在庫だけでなく、CDのジャケット・帯にところ狭しと推奨コメントが書かれている点だ。特にユニヴェル・ゼロやプレザンなど、北欧チェンバー・ロックのCDには「暗黒…異端…堕天使…」と名ポエムが並んで気合が入っている。

もうCDの帯を読んでいるだけで、数時間お店に入り浸れるくらい勉強になる。「スタッフ大推薦」みたいなCDを借りても当たり外れが大きいのだが、それは自分の耳が悪いのだと恥ずかしくなってしまうリスペクトしている。

筆跡や文体を見る限り、あらゆるジャンルに精通した天才レビュアーが一人で書いているのでないかと思う。しかもゴア・トランスのCDに「ライリー好きは必聴」みたいな、ジャンルを横断してすごいコメントも付けてくる。

ついついつられて、ミニマル・ミュージックの大御所テリー・ライリーと一緒に、サイケなエレクトリック・ユニバースを借りたりしてしまう。まるで宇宙コンビ(ニ)といえるジャンルを超えた連帯感にワクワク。

確かに同じコンピューター制御の電子音楽として似ているところもあるが、ハードフロアみたいに頭悪そうなイスラエルのDJが、カーヴド・エアを参照しているとは思えない。そんなパタフィジックで脱構築的なジャニスのPOPに楽しく踊らされて、ありったけ散財してしまったものだ。

最終日はお会計30分待ちの行列

何となく名残惜しく最終日の10/31にもお店に行ってみたが、夕方にはレジ前に10人くらいの行列ができていた。年末年始のセールでも見たことがないくらいの込み具合で、めいめいがまとめて数10枚も借りるので30分くらい待たされた。

よく見ると行列の中には、眼帯が目立つダースレイダーさんもいらっしゃった。前に渋谷でクラブ関係のプロモーションを手伝った際、トークショーを見ていて話がうまいなと思ったら、それもそのはず本職のラッパー。しかも東大中退とかすごいキャリアの持ち主で、最近、医師から余命宣告も受けたとカミングアウトしていたのが印象的だった。

店員さんと親し気に話している人も何人かいたから、もしかしたら他にも有名人がいたかもしれない。市井のマニア以外に、業界人やDJもよく通っていたんだろうなと思う。

もう東京に住む理由がなくなった

自分はせいぜい15年くらいの付き合いだが、ジャニスに投じたお金で中古車くらい買えたかもしれない。iTunesやストリーミングの普及で、レンタルCDというサービスが廃れつつあるのはわかる。ジャニスの閉店は、それ以上に一つの時代が終わったような気がして悲しい。

ある意味では貴重なアーカイブといえるジャニスのCD群。一部の廃盤は高値で取引されると思うが、今後どのように処分されるのだろうか。一挙に中古市場に出回るのか、あるいは別業態や、ほかの会社が引き継いでレンタルサービスを続けてくれるとうれしい。

ジャニスが閉店したおかげで、もう首都圏で暮らす必要がなくなった。退職してから東京郊外に引っ越したが、今思えば長年「ジャニスに通える距離」を重視して住まいを選んできた気がする。

最近はSound Cloudで未発掘のレア音源を探すのも楽しいし、ほとんど無名なDJの作品をウェブからダウンロード購入する機会もあった。市販・レンタルのCD以外に、音楽を楽しめる流通経路が多様化したといえる。

高校生の頃、小遣いを握りしめて月に1枚だけ買った名盤ほどには、1つの曲を聴きこむ時間と集中力がない。仕事中やジョギングしながら、ながらで音楽を聴くスタイルになった。

もう昔の曲は聴き尽して、あとはフートレグとか搾りかすしか残っていないと思うときもある。逆に、昔好きだった曲をリミックスしたり、現代風に解釈して新曲を打ち出してくるアーティストに出会えるのはうれしいものだ。