賛否両論「地域おこし協力隊」の実情。これぞ有益な税金のばらまき?

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岐阜に来て初めて知った総務省の制度「地域おこし協力隊」。何やらゆるい名称だが、月給16~20万をもらって過疎化の進む地域に移住し、住居・車など支給の上、行政の観光振興や農業・林業、移住支援事業をサポートするらしい。仕事の内容は受け入れ自治体によってまちまちなようだが、自分が見た岐阜県内の例では兼業自由で週3~4日の勤務でよいらしく、ちょっとうらやましいくらいに見えた。

最初は税金のばらまきにしか見えなかったが…

はじめてこの制度を知ったときは、東京在住の身として税金のばらまきにしか思えなかった。若者の地方定住が目的だが、定着割は6割で、2015年度は42億円の税金が無駄になったとの試算がある。

「月給16万」というのは微妙な額だが、家賃と車代が先方持ちなら田舎で暮らせない金額ではないだろう。ハードな日雇いバイトで1日1万円、16日みっちり働くのに比べると、役所のデスクワーク中心なら恵まれた労働環境に思われる。少なくとも、都会でブラック飲食店のバイトを続けて擦り切れるよりは、田舎で地域おこしを手伝った方がずっと幸せそうだ。

一方で、配属された役所の対応がおざなりで「ブラック自治体」なんて呼ばれることもあるようだが、仕事は与えられるものでなく自分から開拓するものだ。時給千円のルーチンワークより、頭を使って地域振興を仕掛ける協力隊の方がクリエイティブでやりがいがあるように思う。長時間労働をブラックだと嘆くか、残業代がもらえてうれしいと思うか、やり方を変えて定時に帰れるように工夫するかはその人次第だ。16万円を肉体労働で稼ぐ苦労を知れば、便所掃除くらいなんでもない。

田舎で実際に活躍する協力隊を見て、考えが変わった

しかし、とある山奥で実際に地域おこし協力隊として活動している人々を見ると、案外うまくいっている制度かもしれないという気がしてきた。役所だけでなく地元の人にも協力隊は認知されていて、最初はよそ者でもわりと打ち解けて暮らしている。ただでさえ高齢化が激しい限界集落に20代の若者(特に女性)が来ると、それだけで話し相手ができたお年寄りが生き生きしている感じだ。

国支援の壮大な傾聴ボランティアとでも言えそうだが、空き家を活用したコミュニティースペースの運営など、まさに協力隊にうってつけの事業である。本来は特産品をPRするとか外向きの事業がミッションだと思うが、自治会に入って消防団とか地域のスポーツイベントを手伝うだけで地域が盛り上がるのはわかりやすい。

先行き不透明な協力隊制度にあえて応募してきた人たちだけあってバイタリティーが高く、中には地元の有志と意気投合してライブコンサートを行う人もいて、文化的な広がりも出てきている。協力隊には、国立大学の修士卒なんて高学歴の人がいるかと思えば、世界を放浪してきた、いかにもヒッピー風な若者もいたりする。

所詮、国から補助が出ている間だけで、税金の無駄遣いと批判が増えれば終わってしまう制度かもしれない。自治体の自己負担では、1人あたり300~500万の活動資金を用意するのも不可能だろう。ただ、移住政策で田畑や牛がもらえるとか、家付き土地が無償で用意される例も出てきているので、給与以外のインセンティブで若者を地域に惹きつけられる可能性はある。徳島県神山町のようなアーティスト・イン・レジデンスだけでなく、もっとゆるい就農林業支援でも、自治体主体で取り組める移住促進はあり得る。

地元のおじいさんおばあさんに歓迎されている協力隊の若者を見ていると、任期終了後の定住率が6割もあるというのは逆にすごいことかもしれない。ほかにもっとひどくばらまかれている税金もあるから、その中で一部が確実に成果を上げている協力隊制度は拡大してもよさそうな気がする。

地方で起業を考えるなら協力隊に入るのが近道か?

地域おこし協力隊のオプションとして、最終年度か任期後1年に上限100万円の起業支援が行われるようになった。自分の知る協力隊は、この制度があることも知らずに自分で起業して、週に数日はそちらの事業に精を出している。ベンチャービジネスとして大当たりするのは千に三つとしても、ファミリービジネスとして自分と家族を食べさせて行けるくらいの事業が千に百でも生まれれば、地域にプラスになるのは間違いない。

農業でも林業でも電力でも、ITを絡めた地方ネタでベンチャーを興すなら、兼業可能な地域おこし協力隊に仮面入隊して支援金をゲットするのが最短ルートな気がしてきた。役所公認で活動できるから、地元の根回しや協力関係も得やすいだろう。月給16万でも田舎で暮らす分にはそこそこ貯金できそうだから、起業資金の足しにすればよい。

隊員募集中の自治体サイトを見て移住生活を妄想

そんな不埒なアイデアを思いついて公式サイトで募集中の地域を検索してみたら、実家の近くや関東近県でも意外と募集が出ていて興味深かった。応募サイトのつくり込みにも個性があって、現地での活動の様子をイメージしやすいサービス精神に溢れた自治体や、役所的な文章の箇条書きだけで全然熱意が感じられないところもある。長野の茅野市とか沖縄の石垣島は、ただでさえ移住希望者が多い地域で倍率も高そうだ。

そんな中で、一番心を打たれたキャッチコピーが山梨県丹波山村のこれ。

~助けてください!~『山梨県丹波山村』関東地方で一番人口の少ない山村です。

実は奥多摩に遊びに行ったついでに丹波山村の道の駅に寄ることがあるのだが、どうしてこんなところに人が住んでいるのか不思議なくらいの山奥だ。県境をまたげば東京都の檜原村だが、松姫トンネルが開通して大月方面からは行きやすくなったとはいえ、最も都心に近い秘境という気がする。個人的にはアクアラインを抜けて房総半島に向かうより、陸地伝いに歩いて行ける奥多摩の方が安心感を覚える。

「都会のきついバイトでしごかれるより、田舎でのんびり協力隊」。無職やニートの人には耳寄りな情報だし、もともと地方移住を考えている人がIターンやJターンの足掛かりにするにもよさそうな制度に思われる。年齢制限も40歳から55歳くらいまで、自治体に寄って幅広く設定されているので、退職して協力隊でお試し移住をはじめてみるのもありだろう。

各地の募集職種は似たり寄ったりだが、全国の募集をウェブサイトで見ながら移住先を考えるのは楽しい。東京でリストラされたお父さんが、協力隊として千葉や茨城に平日単身赴任するとか、若年層に関わらず社会のセーフティネットになりそうな予感もする。