キネシスの安いエルゴキーボードFreestyle2、使用3か月レビュー

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米国Kinesis社製のエルゴノミックキーボード、Freestyle2のレビュー。左右分割方式で、肩を開きながらリラックスした姿勢で打鍵できるのが売りのアイデア商品だ。メンブレン方式なため、他社製品や同社シリーズの中でも価格は一番安い。

キー配置は標準的な方だと思ったが、長く使っていると気になる点が増えてきた。特に十字キーまわりで押し間違うことが多く、もう少し普通のテンキーレス配置に近ければよかったと思う。

3か月ほど使ったが、結局FILCOのメカニカルキーボードに戻してしまった。打鍵感や静粛性は問題なく、姿勢の改善効果は期待通りだったので、「キー配置だけが惜しい」製品といえる。

エルゴノミックキーボードの候補

最近壊れたマウスを、マイクロソフトのスカルプトや、ロジクールのMX Verticalというエルゴノミックタイプに買い替えてみた。手首を寝かせずに自然なかたちでマウスを握ることができ、長い目で見れば身体に良いように思われた。

ついでにキーボードもエルゴタイプを試してみようと思ったら、候補がいくつも出てきた。まわりで使っている人をあまり見たことはない。その存在を知ってはいたが、今まで手を出す勇気がなかった大胆なかたちのキーボードたち。

昔からあるマイクロソフトの湾曲した製品は、テンキー付きだったりパームレストが広かったりして大型すぎた。今ならグレーのSurfaceキーボードがカッコよく見えるが、どう見ても自宅の机に収まらない。

一方、極小タイプならMisTELやMatiasの分離型がコンパクトだ。メカニカルキーで高品質な分、価格は跳ね上がる。

省スペースなのはいいとして、せめて十字キーとDel、 Home、End、PageUp/Downのキーは右側に独立して残しておいてほしい。キー配置に関しては、FILCOと東プレに共通する「テンキーレス」方式が長年使っていて好みだ。

値段が手ごろなフリースタイル

テンキーレスで極小すぎず、価格もお手頃ということで目を付けたのが、キネシスのフリースタイル2。左右分離型で場所を取らず、キー配置もわりと普通。オプションのV3アクセサリを追加すれば、台座の傾きを調整できる。そして何より、この手のエルゴ製品にしては1万円弱で買えるのがお手ごろだ。

とりあえずアクセサリーは省いた状態で、Freestyle2の9インチ版(中央ケーブルの長さ、20インチもある)を注文してみた。キーレイアウトは普段から英語配列に慣れているので問題ない。US配置に慣れると、こうした海外製品も気軽に試せるのが強みだ。

Kinesisは他にもAdvantageという異形の大型キーボードを販売している。キー配置が特殊な上、3万以上する高級品。さすがに手を出す勇気はないが、愛用している人も多いらしい。

エルゴノミックデバイスの専業メーカーとして、全体的に評判はよさそうに見えた。とりあえず入門用のフリースタイルを試して気に入ったら、上位製品やアクセサリーを検討したい。同じシリーズで、メカニカルキーや傾斜付きなど高級製品もラインナップされている。

キータッチは軽く、きわめて静音

まず触ってみて気づくのは、キースイッチがメンブレンであること。CHERRYのメカニカルで、さらに軸の色まで選べるエルゴ製品だと価格も上がってしまうので仕方ない。

10年振りくらいに触ってみたメンブレンだが、これまで使っていた赤軸に比べてタッチは軽く感じた。そして圧倒的に打鍵音が静かだ。

メカニカルだと赤軸に静音リングをはめても「カチャカチャ」耳障りな音は残る。一方、フリースタイルのメンブレンは「シャカシャカ」鳴る程度。東プレの静音加工された高級機に劣らない静けさだ。

メンブレンの中でも上等

キーの打ち心地としては、メカニカルに比べるとフニャフニャ頼りない感じがするのは否めない。それでも昔の安いキーボードのように、変に引っかかって沈みにくくなったりすることはなかった。メンブレンも20年前より進化しているということだろうか。

キーが軽いので、慣れれば高速タイピングできる。筆記具に例えると、高級万年筆のような満足感は得られないが、事務用ボールペンとしては「よく書ける」という印象だ。実用上は、メンブレンでまったく問題ない。

適当に離して置いても使える

分離キーボードの中央上端を固定するヒンジパーツが付いてくるが、これは不要だった。左右にちょっと広げるくらいでは、普通のキーボードとたいして変わらない。左右に大胆に離して置ける、分離式を選んで正解だった。

自分の場合、上端5cm、下端8cmほど離してハの字に広げたポジションが使いやすいと感じた。セッティングはそこまでシビアでなく、適当にばらけて置いても身体の方が対応してくれる。

肩まわりが楽、生産性アップ

「肩を開いてキーを打てる」という効果は期待通りで、ホームポジションに両手を置いたまま、くつろいだ姿勢をキープできる。これが普通のキーボードだと、手首を不自然に曲げて緊張した姿勢になってしまう。

エルゴノミックマウスを試したときもそうだったが、いかにこれまでの作業姿勢が窮屈であったか思い知った。エルゴ製品を使うことで長期的には職業病を防ぎ、健康増進にかなり寄与しそうな気がする。

たとえるなら、今までは自転車のタイムトライアル競技で空気抵抗を少なくするため、両脇を閉じてエアロバーを握っているような姿勢だった。それがエルゴキーボードだと、肩幅ちょうどのブルホーンハンドルを握る感じで無理がない。

肩を開くと肺が締め付けられず、呼吸もスムーズになり脳に酸素が供給されるイメージ。腕・肩の疲労感が軽減されるだけでなく、作業効率全体がアップしそうな気がした。

キー配置の違和感(左端ホットキー)

いいことづくめのキネシス製品だが、長期間使っていると不便に感じる点も出てきた。まずキー配置に関して、フリースタイルは他のエルゴ製品よりまともだが、左側2列のホットキーブロックが余計に思われる。

「キーボードの左下にはCtrlがある」と無意識に覚えているので、うっかり外側のFnキーを押してしまうことが多い。そうなるとキーの右半分が勝手に別の機能に置き換わってしまう。NumLkが有効でない場合は、不自然なカーソル移動に変わって一瞬焦る。

そして、ホットキーのCut/Copy/Pasteを始め、DelやUndoなどまず左手で押すことはない。ブラウザの「戻る/進む」に該当するAlt+←/→は便利かと思ったが、これも普段はマウスの親指ボタンで操作している。

同シリーズのProやEdgeなら、ソフト側でマクロキーのカスタム設定ができる。しかしこの手の使用頻度が低いオプションキーは、左端より上端にでも配置した方が押しやすいと思う。

一体化したファンクションキー

上端のファンクションキーは、右側をPrnt ScrとDeleteに侵食されているので、左のEscキーが押し出される変わった配置になっている。

Escキーは幅広で押しにくいことはないのだが、F1~12が4個ずつ固まりになっていないのは微妙に不便だ。よく使うF2、F5、F7など、ブロックに分かれていないとブラインドタッチしにくい。

そしてEscはいいのだが、右側DeleteがEnterキーの近くでなく最上段に移ってしまったのは何とも微妙。

ホームポジションから右手を動かす距離が長くなり、毎回指を伸ばすのが疲れる。

カーソルキーまわりが窮屈

さらにキー配置で最も不満だったのは、十字キー近くにあるPage Up/Downだ。特にPage Downがカーソルキーにめり込んでいるので、手元をよく見ないと押し間違いやすい。そして縦に連なるHomeとEndも頻繁にミスタイプする。

キーが隙間なく整然とレイアウトされて見た目はきれいだが、これらのカーソル移動・スクロールに関わるキーは他と離してほしかった。FILCOのテンキーレスのように、多少全体横幅が伸びても十字キーとHome~Endは独立した島になっていてほしい。

Ctrl+Yが片手で押せない

分離型キーボードが抱える構造上のデメリットは、「離れた位置にあるショートカットキーが押せない」という点だ。Ctrl+CとかCtrl+Vは問題ないのだが、Ctrl +Yなどが左手だけで押せなくなる。

自分の場合、イラストレーターでアウトライン表示をオンオフするのにCtrl+Yはよく使う。IrfanViewという画像編集ソフトで「選択範囲を切り出す」にもこの組み合わせを使う。

「右側のCtrlと組み合わせればいいのでは?」と思ったが、右手小指でCtrlを押すのはどうも慣れない。そして右Ctrlは十字キーと隣り合っているので、これもまたよく押し間違う。

結局左手でCtrlを抑えつつ、右手でYを押す二段階操作でこなすしかなかった。

第二のホームポジション

エルゴ製品のコンセプト通り、両手を離して置けるのは絶大なメリットといえる。一方で、FreeStyle2もキー配置に若干の癖があり、特に右端部分の配列が窮屈で押し間違いやすいとわかった。3か月使っても改善されなかったので、これは慣れの問題でなく構造的な欠点と思われる。

しかしその真因は、自分が「FILCOテンキーレス」およびフルサイズのキーボード配置に慣れすぎただけかもしれない。右手にカーソルキーの独立ブロックがないと落ち着かないが、キネシスを10年単位で使い続ければ解消されるのだろうか。

上:FILCO Majestouch NINJA テンキーレス、下:Kinesis Fleestyle2

よくよく考えると、文章を一通り打った後の編集タイムでは、「右手でカーソルキーをつかむ」という「第二のホームポジション」を取っていることに気づいた。

右手で十字キー、その上のHome/Endに指を伸ばして、修正したい個所にすばやくカーソルを移動させる。そしてHome/Endブロック左下のDelキーで消去して打ち直すという具合に、一連の動作は、画面から目を離さずに行うことができる。

この定型動作をスムーズにできないのが、キネシスに不満を覚えた最大の理由だと思う。QWERTY配列と同じで、長年身についた習慣というのは、なかなか変えられないものだ。

エルゴに慣れると不幸になる?

エルゴ製品や高級キーボードの隠れたデメリットとして、「他の製品を使ったときに不便に感じる」点が挙げられる。職場や出先で「自分専用でない」PCを使う機会の多い人は、毎回ストレスを感じてしまうことだろう。

親指シフトや親指Fnをそなえた小型キーボードも似たようなものだ。マニアックな方式に特化してしまうと、不本意ながら「普通の」入力デバイスを使うときに違和感を覚える。高機能チェアでも昇降機能付きデスクでも、作業環境のインフラすべてに共通するジレンマといえる。

「舌が肥えてグルメになると、安い牛丼が食べられなくなる」のと同じ現象だ。上質を知って幸せといえるのか、普通で満足できなくなって不幸せなのか、よくわからない。