雲上ブランドのクオーツ比較~そして再び機械式時計を選んだ理由

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ミニマルリスト化の一環として、昨年IWCの機械式時計を処分した。90年代の古いPortofinoで、デザインは気に入っていたが、仕事で着ける場面も減って無駄に持て余していたところ。世界的な時計相場の値上がりで、思ったより高くさばけた。

次に時計を買うなら、オーバーホール代のかからないクオーツがいいと考えていた。薄くて軽くて壊れにくい、そして時間も正確と、プロダクトとして機械式に劣るところはひとつもない。

しかし、究極的にシンプルな薄型ドレスウォッチを探していたら、結局またメカニカルウォッチを買うことになってしまった。しかも今度は手入れの面倒な手巻き式。もはやこれは、実用というより「時計」という人類の文化、その内部機構を研究するための投資だったといえる。

仕事用には白文字盤が無難

にわかに仕事で上着を着る機会が増えたので、ポートフィノのようなドレスウォッチを買い増したいと思った。カジュアルなクオーツ時計は何本か持っているが、無難な白文字盤のモデルを持っていない。

シンプル派のクオーツ時計でいうと、ひとまずダニエルウェリントンは除外するとして、オーレ・マティーセンあたりは無駄に高すぎる。90年代IWCポートフィノの同型クオーツモデルも存在するが、やはり中古で数万はかかる。

筆記体ロゴのSCHAFFHAUSEで、今ではオールドインターと呼ばれる部類。おそらく10代の頃、ファッション雑誌でよく見ていた時計が理想形と刷り込まれてしまったのだろう。大人になっても、なぜか似たような白文字盤のシンプルナドレスウォッチばかり探してしまう。

予算3万からのハイエンド・クオーツ

昔から購入候補として、ロンジンのグランドクラシック、白文字版・バーインデックスのクオーツモデルを検討していた。10年前は普通に家電屋にも並んでいたが、製造中止されたのか在庫を見なくなってしまった。

量販店の吊るし売りはちょっと寂しいので、予算的は3万円くらい。クオーツでこれだけ出せば、年差精度のハイエンドモデルが余裕で手に入る。エコ・ドライブや電波時計も買える範囲だ。

国内製品はセイコーのドルチェとクレドールを中心に、現行~中古を含め徹底的にリサーチした。いくつか目星をつけたうえで、2針・スイープ秒針など特徴的なモデルをいくつか中古で買ってみた。これらについては別途レビューしたいと思う。

→さんざん迷って結局買わなかったが、ドルチェSACM171のレビューはこちら

雲上さん、いらっしゃい

シンプルなクオーツ時計を探していたら、海外高級ブランドの製品が一部流通しているとわかった。基本的には機械式だが、レディース用の小型はムーブメントがクオーツだったりする。総じて中古の相場も機械式よりちょっと安い。

ジャガー・ルクルトのクオーツは、文字下にQと一文字入るのが余計だ。パテック・フィリップのカラトラバや、ヴァシュロン・コンスタンタンのパトリモニーにもクオーツモデルが見つかった。しかし探した限りでは、レディース用の宝飾付きしか出てこなかった。

ロイヤルオーク以外のオーデマ・ピゲ

雲上ブランドの2針クオーツを選べば、見た目は高価な機械式にしか見えない。パチものではないが、そんな「なんちゃって」クオーツとして流通量が多いのはオーデマ・ピゲだ。調べた限り、小ぶりのゴシック体の旧ロゴ、セリフ付き書体の新ロゴで2種類、薄型のクオーツ時計が出回っている。

オーデマ・ピゲといえば、一般的なイメージはロイヤルオーク一択。1972年発売のマスターピースを徹底的に掘り下げ、バリエーションを増やして売る販売戦略は、ロレックスより徹底している。

ステータスシンボルとしてのわかりやすさが命。そのためロイヤルオーク以外のモデルは存在しないに等しい。メーカーもあえて宣伝しない。だからこそ、あえてスポーツ用でないAPのクラシカルなドレスウォッチに興味を覚える。

APクオーツの見分け方

オーデマ・ピゲのクオーツは、文字盤にQやQuartzという文字が入らない代わりに、12時位置のインデックスがAPというマークに置き換わっている。調べた限り、薄型ラウンドのクオーツモデルはみなこうなっている。外観を機械式と区別するため、あえて設けられた仕様かもしれない。

 

12時にAPマークがない方は機械式だ。クオーツモデルに比べて、アワーマーカーの棒が若干長くなるという特徴もある。ロゴ下にGENEVEと入っているモデルは、さらに年式が古い。インデックスやダイヤル・ケース素材のバリエーションは無数に存在する。

 

クオーツといえ、さすがにムーブメントは高級仕様。パーツに宝石類が使われていたり、裏ぶたの裏側がペルラージュ模様だったりするのは言わずもがなだ。当然ケースも18金かプラチナなので、中古相場も20万はくだらない。

二極化する腕時計のユーザー層

雲上ブランドはもはや「価格が高い」ことそれ自体がステータス。ヴェブレン効果と呼ばれる顕示的な消費パターンで、高ければ高いほど製品の効用が高まる。他者の評価に依存する外部性がフィードバックし続けた結果、異様に価格高騰してもおかしくない。

最近、高級時計の広告が増えて値段も倍増しているのは、スマホやスマートウォッチに押されて実用性が意味をなさなくなってきたからだろう。クオーツショックと似たような携帯・スマホショックとは、時計業界が高収益分野に成長するポジティブなきっかけになったと思う。

今回はスイス勢が先鞭をつけて、セイコーがグランドセイコーをレクサス化(別枠の高級ブランド化)して追従している感じだ。ついでに長年日の目を見なかった、クレドールの宣伝も増えてきたと思う。

いまどき時刻を知るために腕に時計を着ける必要があるなら、100均でも十分間に合う。それと同時に、100万以上する機械式時計を買い求めるユーザーも存在する。この先も顧客層が二極化して、ドルチェやプレサージュといった中間価格帯の良品は、いずれ淘汰されてしまうに違いない。

予算が4倍に膨らんだ理由

そんなことを考えながら時計を探しているうち、予算は3万どころかどんどん膨れ上がってきた。むしろ、通常100万以上する雲上ブランド品が、「わずか」20~30万で買えるという現象に興味を持った。

「明日、交通事故にでも遭ってすぐ死ぬとしたら、気に入った時計を着けておきたい」…そんなろくでもない理由を考えて買ってしまったのは、結局中古の機械式時計、しかも手巻き。

以前、クロモリ素材の渋いロードバイクを新調しようと思って、気づいたら値段2倍以上のカーボンバイクを買ってしまったことがある。せっかくなら「レースにも出られるグレードのフレーム」が軽くて汎用的と、ショップでいいくるめられてしまった。

仕事でなく趣味で買う道具は、大幅に予算オーバーする」という行動心理があるのかもしれない。車やパソコンを買う際はコスパと性能をシビアに検討するので、こういうことはおこらない。

「研究」という観点はあぶない

男の趣味は20万から」とは、いったい誰が言い出したセリフだろう。100均やホームセンターで買う安物よりは、ハイアマチュア向けの中堅価格帯が長持ちしていいと思う。まともな時計の価格レンジも、実売3万くらいが妥当と考えていた。

おそらくそこには生活必需品でなく、趣味で「研究してみたい」という別の動機が絡んでいる。今まで使ったことのないシースルーバックの手巻き時計、そして国内メーカーの高級ラインというニッチなカテゴリー。「コレクションに加えて、使い勝手を調べておきたい」という危険なモチベーションだ。

  1. Audemars Piguetの隠れクオーツに魅かれたが、APマークが目立って気になる(ブランドの旧ロゴは小ぶりでつつましいのに)
  2. 同モデルの手巻き時計の方が、文字盤はシンプル。極薄キャリバーでケースの厚みもクオーツと同じくらい。
  3. 探したらセイコーから似たような手巻き式が出ていた。中古相場は半額以下、そしてOH代も安そう。

という流れで、結局買ったのはSEIKOが90年代初頭に発売したSCVL001という機械式時計。

気に入ったモノに大枚をはたけば、その後10年くらいは他社製品や新商品に目移りしなくて済むというメリットもある。決して安くはない「勉強代」という対価を支払ったので、しっかり使い込んでレビューしようと思う。

セイコー伝統の68系キャリバー搭載、SCVL001の感想についてはこちら