『地方消滅』レビュー、東京一極集中は合理的な究極のコンパクトシティ

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数年前に話題になった増田寛也編著作の『地方消滅 東京一極集中が招く人口急減』。ブックオフの株主優待で新書の古本が安く買えた。数年前のベストセラーは古本がたたき売りされて流通豊富である。

少子高齢化は誰もが認識している日本の社会問題だが、地方からの人口流出という別の側面にスポットを当てた内容だ。東京に住んでいるといまいち実感が薄いが、歴史をたどれば50年近く前から進んでいる人口移動現象といえる。

住環境としてはデメリットも多いのに、なぜみんな東京に住みたがるのか…その理由を掘り下げて考えるいい機会になった。そして地方が消滅する一方で東京が向かうシナリオも、「地方以上の超高齢化」という問題点がわかった。

高齢化の原因は人口減少

その前に流行った『里山資本主義』と同じく、本書も地方の衰退、人口減少問題を扱っている。『里山』の方は、その中でも地方発で成功した産業事例を紹介するポジティブな内容だったが、『地方消滅』はひたすら人口動態から暗黒の未来を予想し、ダークサイドに焦点を当てた本になっている。

人口減少問題の直接的な原因は出生率の低下といえる。人口置換水準の2.07を下回り、2018年は1.43まで下がっている。2005年には過去最低の1.26を記録して、そこからやや回復したともいえるのだが、人口が減り続けることには変わりない。

社会問題としては、少子化・人口減少より高齢化の方が対策に急を要する。しかし、高齢化の原因も元をたどれば少子化なわけで、人口減少を食い止めなければ抜本的に高齢化も解決できない。

人口減少が進んで高齢者自体が減ったとしても、高齢化の問題がなくなるわけでもない。割合的には若年人口の方が減少するから、年金の担い手がいなくなる。結局出生率を増やしさえすれば、高齢化の問題も自動的に解決するというのは筋が通っている。

地方消滅というバズワード

少子化と高齢化のテーマは幅が広すぎるので、本書は人口の自然増減より社会増減、その中でも「地方から大都市圏への人口移動」という点に絞って議論を進めている。地方から東京への人口流出が止まらないため、日本全体より速いスピードで地方人口が減少する。「日本もやばいけど、地方はもっとやばい」というのが着眼点だ。

その中でも特に、若年女性が流出すると地方の出生率自体も低下し、ダブルパンチとなる。冒頭に掲げられている日本地図が「2040年に20~39歳の女性が50%以上減少する市区町村」なのも、それが理由である。

このインパクトある絵が「消滅予定の地方都市リスト」と短絡的に受け止められがちだが、それは著者の戦略だろう。タイトルは『地方消滅』だが、本の中では「消滅可能性都市」と控えめに言い換えられている。さらに「極点社会」「人口のブラックホール現象」など、やたらとカッコ書きの造語が出てくるが、数打った中で当たったのが「地方消滅」というキャッチコピーだ。

ケインズにならえば「長期的にはみな消滅する」…そう言ってしまえば元も子もない。地方の衰退に的を絞ったことにより、椅子取りゲーム的な危機感を喚起したのが、本書成功の理由だと思う。

大都市圏と地方の人口循環

地方から三大都市圏への人口流出について、歴史的な経緯が紹介されている。

  1. 1960~1970年代前半の高度成長期における若者の集団就職
  2. 1980~1993年のバブル期に東京圏のサービス業・金融業が成長
  3. 2000年以降、地方経済・雇用状況の悪化による流出

このうち1と2は大都市圏の雇用吸収力増大(プル型)が原因であるが、今世紀に入った3は地方の衰退(プッシュ型)と分析されている。

歴史をたどると、1972年の田中角栄による日本列島改造論で、すでに太平洋ベルトから地方への機能移転、工業再配置が掲げられていた。ほかにも田園都市構想など似たような政策が続けて出されたが、結局中央政府の財政支出によるハード整備がメインで、一時的な刺激にしかならなかったというのが、大方の見方だ。

東京から地方への人口流出もありえる

個人的に興味をもったのは、3つのピークの間に都市部から地方に人口回帰するUターン・Iターンも起こっているということだ。国家戦略の歴史を振り返ると、一時的でも何にせよインセンティブさえありさえすれば、東京一極集中は緩和される可能性がある。

「東京より地方の方がいい仕事にありつける」という状況になれば、自然と人口分布が平準化されるだろう。ネガティブな予想だが、今後地方の衰退以上に東京が荒廃して魅力が薄れれば、地方への人口回帰もありえる。

医療・介護という人口誘導要因

一例として、現在地方からの人口流出をかろうじてとどめている要因が、地方における医療・介護分野のニーズだといわれている。AIやロボット化が進んでも当面は産業集約的にならざるを得ないので、全国どこにでも高齢者がいる以上、その場でサービス提供するしかない。

今後、東京圏は高齢化率35%を超える最悪の超高齢化社会となり、最後の砦であった医療介護人材も地方から流出すると予測されている。逆にこの因果関係がクリアなら、東京の高齢者を地方に移住させればよいという話になる。

東京で育児サービスを充実させて出世率を上げるより、高齢者を追い出した方が効率よさそうだ。楡修平の『プラチナタウン』のような民間主導型プロジェクトでなくても、「地方移住すれば年金2倍」とか政策的に誘導することもできる。

逆に高齢者を押し付けられた地方は、医療費負担が増えるとネガティブにとらえられそうだが、介護を担当する若年層もついてくるとしたらメリット・デメリット半々だろう。特に地方経済の1/3は年金消費でまかなわれている状況だから、生産活動に寄与しない高齢者が増えても、それを世話するサービス産業が自然と集まって来る。

東京集中は日本全体で見たコンパクトシティ

世界的に見ても東京への一極集中は異常な現象、ある種のバブルだ。首都直下型震災が起こったり、富士山が噴火したりするくらいでは止まらないだろう。

規模の経済、集積の経済という誘因は誰でも思いつくが、パリ・ロンドン・ニューヨークなど先進国主要都市に比べて東京の集中度が高いのは、日本人がまじめで合理的すぎるからではなかろうか。

大都市圏への人口集中は、日本全体でコンパクトシティを突き詰めた結果といえる。ワークライフバランス的な観点よりも、生産性向上・所得向上をモットーにしたら、自然とこうなったとしか言いようがない。

「子育てより仕事が優先」という世間的な風潮もあり、独身のまま東京に集まってバリバリ働くのが最も効率よい。会社も個人も持続可能性より短期的なパフォーマンスを重視するので、「東京で稼げるうちに稼いでおこう」という話になる。

人口密度が高すぎて、行政サービスの効率は上がるが、質は下がったかもしれない。通勤ラッシュの満員電車は鉄道会社の収益に貢献するかもしれないが、顧客としてはうれしくない体験だろう。

どこかで「東京で暮らすのはわりにあわない」と感じれば、地方に戻る若者も増えるはずだ。現に子育てに関して東京は過酷な環境なので、地方の実家近くに引っ越す知り合いも増えている。人口密集しすぎて東京が自滅するシナリオも考えられるが、それはまだまだ先に思われる。

大都市を拠点にする地政学的メリット

本書はあくまで日本国内の人口移動に関する議論だが、人口動態には「国際的な競争力」という観点も影響してくる。東京に一極集中するのは、そうでもしないと他国に売れる製品やサービスをつくれないという理由がある。

著者が主張するように、あくまで人口減少を撤退戦と考えるなら、地方移住を促進して仲良く痛み分けしながら終末を迎えるのもありだ。一方、このまま究極のコンパクトシティとして東京に一極集中を続け、マカオやシンガポールの水準まで人口密度を高めて生き残るという選択肢もある。

東京・名古屋・大阪に人が集まるのは、そこに仕事があるというソフト的な要因だけではない。「日本の真ん中にあって各地に出張しやすい」という地政学的な理由もある。全国的、グローバルに展開する企業なら、やはり東京に拠点があった方がコスト面で有利になる。国際空港まで移動する時間・費用が安く済むというのは、単純にメリットだ。

単身者には東京の方が住みやすい

また、単身者にとっては相対的に東京の方が住みやすい環境が整っている。都心は別として、町田や八王子くらい郊外に行くと賃貸物件の相場がぐっと安くなる。近隣大学の学生が減って賃貸物件の供給過多になった結果、2~3万円台で借りられるRC造のマンションがごろごろ転がっている。地方に行くとそもそも賃貸に出ている物件が少ないため、逆に相場は上がってしまう。

東京に住んでいると、親が転勤族だったので、そもそも地元というものがない人にもよく出会う。「実家や地元にUターン」という動機がなく、全国どこかに直行Iターンするしかないとしたら、やはり大都市圏の方が潰しが効く。特に縁もゆかりもない地方に向かうとしたら、税制優遇や地域おこし協力隊など、特殊な理由でもないとメリットが薄い。

対策の提案はパッとしない

本書で地方消滅を防ぐ対策はいくつが提案されているが、特に目新しいものはない。いかにも国の会議で提言されそうな、中身の薄いスローガンばかりだ。

  • 内閣に戦略本部、地方に戦略協議会を設置する
  • 広域の地域ブロックごとに人口流出の防衛線を築く
  • 企業の育児休業給付引き上げ、女性の登用・活躍促進

地域活性化に成功したモデルとして、秋田県大潟村、福井県鯖江市、北海道ニセコ村、岡山県真庭市が具体的事例として取り上げている。いずれも産業開発型=自立型のモデルではあるが、それ自体ベンチャービジネスのようなものなので、そもそも国が企画するものでもない。

「バイオマスタウン真庭」とか、変なコンセプトの自治体が次々出てきたらおもしろそうだ。そのうち1000に3つでも残れば、地方が全部消滅するよりましだろう。

税制・保険料の優遇で人口移動を図る

唯一興味深かったのが、「地方企業に就職した若者に5年間100万の所得支援を行う」という具体的アイデアだ。地方で起業する際の助成金はいろいろあるが、大半の人にとっては会社をつくるよりサラリーマンになる方が楽だろう。自分も所得が低くて東京を離れられない状況なので、そんな優遇策があればぜひとも地方移住を検討したい。

また、「東京と地方で法人税に差がない」という状況も素直に指摘されている。アメリカのように州ごとに税率を変えれば、企業側や個人経営の零細企業には強いインセンティブになりえる。法人税でなくても、自治体ごとの社会保険料にもっとメリハリをつけるとか、税制・社会保障の面から人口誘導を図ることもできるだろう。

少子化に関しても、育児支援や働き方改革などわかりやすい施策ばかり取り上げられがちだ。「子供を産んだら1億円」みたいな非現実的な話ではなく、扶養控除を10倍にしたらどうだろう。低年収と未婚率の相関には経済状況以外の要因も多く含まれると思うので、むしろ高所得の世帯にもっと子供を産んでもらう方が効果的な気がする。

こういう戦略的な予算配分や税制優遇は、国家主導でしか実現できない。ふるさと納税やiDeCoのように、じわじわ認知されて利用者が増す現象もある。ぜひ少子化対策のおもしろいキャンぺーンを立ち上げてほしいと思う。