仙台近郊の文化財ランチスポット、旧伊達邸「鍾景閣」と茂庭荘の温泉

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仙台市内から車で約20分、東北自動車道の仙台南ICから5分の位置に、旧伊達家の別邸「鍾景閣(しょうけいかく)」と呼ばれる有形文化財がある。秋保温泉より高速インター・仙台駅に近く、茂庭荘という温泉宿(日帰り利用も可)が隣接していて、観光客より地元の人で賑わっている穴場だ。

今回は3千円くらいの懐石ランチをいただいた。秋保観光の途中で鍾景閣に寄って、雰囲気のあるお屋敷で食事してから温泉宿に向かうのもおすすめだ。

300年かけて巨大化した盆栽

施設へのアプローチは、インター近くの脇道を入って名取川の河岸に下る感じ。本数はわずかだが、仙台市内から無料の送迎バスも出ているようだ。途中に怪しげなホテルなどあって風情はないが、茂庭荘のロータリーにある巨大な松の木を見ると圧倒される。

「鍾景の松」という市指定の銘木で、こちらも市内から移設されたもの。伊達家の家臣が盆栽を賜り、子孫が庭で300年育てたらこんな巨木になったらしい。にわかに信じがたいが、水平にうねるやたら長い幹は見ものだ。

明治の建設、昭和に移築された伯爵邸

元の建物は明治期のものなので、さすがにかつての仙台城・本丸ほどの規模はない。コンパクトながらも、中庭や庭園、接客用の大書院が備えてあり、昔の大名屋敷の雰囲気は残っている。

パンフレットの詳しい説明によれば、オリジナルは明治後期に仙台市内に建築された、伊達伯爵家の邸宅。昭和に入って聖ウルスラ学院に譲渡され、しばらく学校施設として利用された。昭和55年に仙台市に寄付され、翌年解体して現地に復元されたもの。

解体時に屋根裏から見つかった棟札によると、設計は当時有名だったら山添喜三郎で、日露戦争中の起工・上棟だったとのこと。戦時中の普請としては、廊下の長押に四方柾目で7間以上の秋田杉が使われていたり、贅が凝らされている。たとえ下屋敷に下りて来たとしても、伊達の殿様はまだ勢力を振るっていたのかもしれない。

今回は玄関からすぐ近くの、客人用控室であった広間に案内された。畳敷きだがテーブルと椅子が用意されており、座りやすくて助かる。この広間と書院からは庭園がよく見えるので、予約して窓際の席が取れればベターだ。

四季彩の膳ランチ

注文したのは月替わりの季節メニュー。2,900円+税で小皿が盛りだくさん、お盆に乗り切れない皿は飾り棚に乗せられてくる。温泉旅館の豪華ディナーほどすさまじいボリュームではないが、品数が多いので気分的にも満足できる料理だ。

ご飯は少し塩気のある豆入りで、鮭の柚子味噌焼きや豚角煮もとにかく手が込んでいる。献立表を見ないと、何を食べているのかてんで見当もつかない感じだ。ゴマ豆腐みたいなゼリー状の塊を口に入れたら、デザートほど甘くはない不思議な味がした。

天ぷらと刺身は安心して食べられる。デザートの水菓子は、芋をアレンジして超小型の焼き芋風に仕立てたアイデア商品。ちょっと洋風なかぼちゃのプリンで季節感はばっちり出ている。

庭園と名取川の借景

表玄関を出て庭の方まで回り込むことができる。ちょうど食事中、スタッフの人が1時間くらいかけて、枯山水の箒目をていねいに仕上げたところだった。石畳から足を踏み外さないよう注意しながら、庭も間近で鑑賞させていただいた。

もともとこの場所を意図して設計された建築ではないが、名取川対岸の崖をうまく借景に取り込んでいる。11月初旬の仙台は紅葉も始まったばかりという段階で、これからもっと見ごろになるだろう。さらに山の方の秋保温泉や磊々峡は、もっと早く赤みが増していた。

伊達政宗とダースベイダー

鍾景閣には売店やちょっとした展示コーナーもあり、伊達家にゆかりのある甲冑が飾られていたりする。なぜかここにダースベイダーがいて、伊達政宗の甲冑がモチーフになったと説明がある。

にわかに信じがたいが、映画の制作関係者から市立博物館に写真提供の申込みがあったそうだ。スターウォーズの解説本には、確かにダーズベイダーと並んで黒漆の鎧兜が掲載されている。あの独特の兜と面のデザインには、それとなく戦国武将の趣も感じられる。

地元のリピーターに人気の茂庭荘

ついでに併設の温泉宿、茂庭荘の日帰り風呂にも寄ってきた。1人600円なので、秋保の共同浴場よりは高いが、温泉街の有名ホテルよりはリーズナブル。6:00~9:00の朝風呂だとさらに安く400円とのこと。見た目は地味な企業の保養所という印象だが、温泉は小ぎれいで整っている。

これまで何度か通ったが、平日午後はほとんど他のお客さんもいなくて貸し切り状態だ。たまにバスの運転手や、職員とおぼしき人たちが汗を流しに来る程度。初めて観光に来た人には、ここより秋保の有名宿の方が風情を味わえるだろう。茂庭荘は交通の便と安めの料金設定からして、地元のリピーターが多い感じだ。

なとり館2階にある露天風呂からは名取川を見下ろせて、河原で行われる芋煮のバーベキューも眺められる。河岸は奥地の磊々峡ほど絶景ではないが、それなりに植栽豊かで雰囲気はある。

秋保温泉は無色透明あっさりマイルド

温泉の質はカルシウム・硫酸塩。秋保とよく似た透明で臭いも少ないさっぱりしたお湯だった。ここしばらくは鹿児島や霧島の強烈な硫黄・鉄泉を楽しんだので、このくらいマイルドな温泉の方が日常的に楽しめる。

仙台市内から通う常連さんにも、「秋保まで行くより近くてリーズナブル」という人気の理由がわかった。幹線道路沿いに車で20分も走れば、山深い渓谷の温泉に日帰りできる。こういう近郊アトラクションが充実していて、安く手軽に利用できるのが地方都市の魅力のひとつだ。