小規模企業共済の予定利率1%と掛金控除 vs 自前で複利運用した場合

先日考えた「所得ゼロ計画」の中に節税スキームとして組み込んでみた小規模企業共済。掛金が所得から控除されるのは大きなメリットだが、現在の予定利率は1.0%とたいしたことがない。銀行預金の利率よりはましだが、株式でも投資信託でもそれ以上の利回りを実現できる投資商品はたくさんある。

「共済を利用して税金を減らすより、掛金を自前で運用して増やした方が得ではないか?」という疑問が湧いてきて、一週間くらい夜も寝られなかった。小規模企業共済には、受け取り時の退職所得にかかる税金、将来のインフレリスクなど、ほかにも気になるデメリットが存在する。

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年利3.1%で20年運用するなら加入効果なし

ひとまず共済の節税メリットと運用利回りの差に着目して、利率・掛金・年数などのパラメーターを変えながら、自前運用との差額を検証してみた。結論から言うと、

  1. 共済の予定利率を1.0%で固定、20年の運用期間で考えると「平均年利3.1%以上、複利で増やせるなら自前で運用した方がまし」
  2. 元本1,000万を平均年利3.6%で増やせるとして「18年以上続けるなら自前で運用した方がまし」

上記は「自前で運用できる利率が高いほど、またその運用期間が長いほど、共済の節税メリットより掛金の機会損失デメリットが大きくなる」という直感と一致する。具体的な数字を入れて計算してみると、損益分岐のかなめになる利率と年数を何となく把握できた。

前提条件として元本1,000万

とりあえず手元に1,000万円の運用資金があると仮定する。小規模企業共済の掛金は月額上限7万円なので、あまり元手が大きいと運用益をすべて控除できない。元本1,000万だと年利8.4%で共済掛金上限額の月額7万に達してしまう。

給与所得控除で引き切れなかった所得や、保険料・DC・扶養・基礎控除などは今回考慮していない。年間の株式譲渡益・配当益などに共済掛金を割り当てて、分離課税の約20%をゼロにするというシンプルなルールで考える。復興特別所得税は考慮していないので、計算に若干の誤差を含んでいる。

要するに、「資産運用で儲かった分を全額共済掛金に突っ込んで、税金をゼロで済ませたい」という目論見だ。そのためには掛金の控除額を充当しなくて済むくらい、給与や事業所得を低く抑える必要があるが、姑息なノウハウは前回説明したとおり

所得税率20%の人も対象

自分が実践している「年収65万以下」とかの条件が一般的でないことは承知している。普通に稼いでいたら、共済掛金を給与所得の控除に回す分が多くなる。いや年収400万でもあれば、分離課税の株式譲渡配当益に充当できる控除枠など残らないだろう。

その場合は共済掛金で、「もともと払うべきだった給与にかかる所得税を減らせる」という別のメリットが生じる。所得税+住民税がちょうど20%の人にも、今回のシミュレーションは適用できる。

短期的な節税効果とは別に、小規模企業共済は「20年以内に解約するとペナルティーがある、利回り1%の金融商品」という側面も持っている。銀行の定期預金よりはましだが、株式中心のインデックスファンドには見劣りする…そんな微妙な運用商品に20年も積立てして、割に合うのだろうか。

運用利回りによる比較

まず、自前の運用利回りがどのくらいなら、共済を活用する場合よりプラスになるかシミュレーションしてみた。運用期間は仮に、共済を任意解約しても元本割れを防げる20年と設定してある。

月額の掛金は、年間の運用益を全額控除できるぴったりの額に設定しよう。例えば年利3.6%なら元本1,000万に対して36万増えるので、毎月3万円納めるとちょうど税金ゼロにできる。基本的に自前の運用利回りは共済予定利率1.0%より高いと仮定しているので、控除額を越えて掛金納付してもメリットはないとする。

実際には毎年一定の利回りで運用できるはずはなく、年によってはマイナスにもなるだろう。そのあたりは一時的に掛金を最低額の1,000円に下げたり、逆に儲かった年は前納するなどして、変動を和らげることはできる。ただし全体として現実世界のオーバーヘッドを勘案すると、共済の節税メリットは今回の理想的なシミュレーションより下回るだろう。

20年の期間で、

  1. 自前で3.6%複利運用した場合の税引き後利益
  2. 共済で1.0%複利運用しつつ利益を全額控除した場合の掛金運用益+元本

両者の差額を求めると、261,914万円分、1の自前運用の方が有利と計算できた。共済利用の場合は月額掛金3万として、エクセルのFV関数を利用して積立複利計算してある。

仮に運用利率が2.4%なら月額掛金は2万円、4.8%なら4万円という風に、ちょうど利益を控除できる分だけ利率に掛金を連動させていく。すると以下のようなグラフで損益分岐を確認できた。

横軸の運用年利率は税引き前。グラフの折れ線がガタガタしているのは、掛金の最低単価1,000円に合わせて、それ以下の金額を切捨てしているためだ。予想通り、平均の年間利回りが上がるほど運用差額は大きくなったが、利率が3.0%以下の場合は逆に共済の節税メリットの方が上回るという結果になった。

平均年利3.1%という壁

利率0.1%刻みで変動させると、3.1%以上から自前運用の税引き後利益が、共済利用を超えるようになる。比較対象の元本や運用年数は恣意的に決めたので、分岐点の利率はあくまでも参考値だ。税引き前で3.1%くらいの運用益なら、国内株式でもキヤノンや日産自動車など、東証一部上場で出来高・配当利回りの高い銘柄に分散投資すれば達成できるだろう。

共済予定利率1.0%&掛金控除に勝てる運用利回りというのは、思ったよりハードルが低かった印象だ。悩ましいのは自前の運用に失敗して、平均年利3.1%を越えられなかった場合。または銀行預金が中心で、そんなに稼げるわけがないという人なら、大人しく共済に預けた方が予定利率1.0%複利で増やせる。

小規模企業共済の利回りは低いが、請求事由がまともなら、早期解約でも元本割れしないという安心感がある。いろいろ投資に手を出したが過去のパフォーマンスが芳しくないという人は、老後の最低生活資金として共済に預けておくのも一案だ。簿価82%を国内債券で運用している、超堅実派の中小機構ファンドに投資したと思えばよい。

長期運用ならハードルは下がる

ちなみに運用年数を変えて勝負させた場合、30年の長期戦なら年利2.5%が分岐点、40年なら年利1.9%で済む。逆に10年の短期戦なら、年利5.8%まで上げないと共済のパフォーマンスを超えられない。

運用年数20年のまま元本を2,000万、掛金2倍にすると、損益分岐が3.3%と少し高くなる。この場合は年利4.2%で月額7万の上限に達するので、それ以上の高利回りでは本スキームを適用できない。

逆に元手が500万で掛金半分の場合は3.0%が分岐点。微妙な違いだが、初期資産が多い場合は多額の掛金で税金免除できる割合が多い分、共済加入の方が有利でないかと推測される。

運用年数による比較

次に、平均年利と掛金を妥当な額に設定して、運用・加入年数によってどのくらい違いが出るかシミュレーションしてみた。ここでは1,000万円の元手に対して年利を3.6%、掛金は毎月3万で毎年の運用利益36万を全額所得控除できるものと仮定している。

なぜ年利3.6%=掛金30,000円に設定したかというと、解約時の一括受け取りにかかる税金の影響を無視したいからだ。年間の掛金36万なら、共済予定利率の1.0%で複利運用したとしても、退職所得控除の勤続年数20年以下1年あたり40万円で相殺できる。

20年後にきっかり解約すると、掛金3万×240か月分に利回り1%を加えた7,966,837円のリターンと試算。40万×20年=8,000,000円の退職所得控除でゼロにできる。勤続(共済加入期間)21年目以降は1年あたり70万の控除額に増えるので、運用益が膨らんでも心配無用だ。

受け取り時の退職金にかかる所得税は、DC・小規模企業共済の隠れコストだが、世間であまり言及されることがない。いろいろ控除が効くので分離課税の20%より有利だが、出ていく費用であることに変わりはない。小規模企業共済のパンフレットにも明記されていないのは、さすがにアンフェアだ。

とりあえず退職所得控除の勤続年数を稼ぐため、「月額1,000円でも早めに共済加入しておくべき」という議論がある。同様に、「月額3万までなら20年以内の一括受け取りでも所得税が生じない」ともいえる。運転資金に余裕があるなら、将来損しない程度に掛金を増やして、節税効果を高めることができる。

ちなみに年利3.6%だと、いわゆる「72の法則」により複利運用で元本2倍になのが20年ときりがよい。しかしそのうち2割を最終的に税金で引かれるとすると、実際の手取りが2倍になるのは少し遅れて23年目だ。1,000万の元手が2倍になっても200万は税金で持っていかれるかと思うと、共済掛金の控除効果に期待できそうだ。

年利3.6%で運用期間18年の壁

利回りと掛金を固定して運用年数を動かすと、こちらも予想通り期間が長くなるほど自前で回した方が有利になった。平均年利3.6%で18年以上、安定して資産運用できるなら、共済に加入するより税金を払ってでも自家運用した方が手取りは大きくなる。

逆にそれだけの期間、平均して稼ぎ続けることができないなら、素直に共済に加入した方が有利だ。モデルケースの20年時点でも、自前複利運用の方がわずかに261,914円ほど共済リターンを上回る程度。

予定利回り=掛金のパラメーターを変えると、損益分岐の年数も変わる。例えば控えめに2.4%運用=掛金2万で所得控除するなら32年が節目。逆に4.8%の高利運用=掛金4万で所得控除するなら13年目で自前運用が小規模企業共済に勝利する。

運用年数のシミュレーションによると、「資産運用のパフォーマンスを5%まで上げても、20年は経たないと共済の節税メリットに勝てない」というのが意外だった。各自の年齢によっては、どれだけ投資で稼げる手腕があっても、共済掛金で利益にかかる2割の税金を確実に浮かせた方がお得と考えられる。

20代の若者なら、毎月7万も中小機構に預けるよりは、自分の勉強や経験に投資した方がメリットがあるだろう。あるいは米国株のインデックスファンドにでも積み立てた方が、40年後のリターンは共済解約金より大きいと予想される。

50代の中年なら、それまで貯蓄した資産の運用益を、共済掛金で所得控除する方が手堅いかもしれない。安定運用を狙って債券中心のバランスファンドに投資するくらいなら、中小機構の官製ファンドに預けた方が手数料も安い。

元本・掛金変えた場合のバリエーション

ちなみに年利3.6%で元本2,000万なら掛金6万で税金ゼロ。この場合の分岐点は同じく18年目。元本500万、年利3.6%、掛金1.5万の場合も同じ18年だった。

仮に元本が大きく3,000万の場合、月額7万に達する年利2.8%で固定すると、分岐点は25年と長くなる。期間が延びたのは資産の大きさというより、予定年利を下げたせいだ。

やはり小規模企業共済は掛金の上限額が低いので、せいぜい2千万強の資産運用に適した庶民向けの節税手法といえる。それ以上の額の資産運用、または高利率で生んでしまった利益分については、大人しく2割の税金を納めるしかない。

共済にまつわる想定外のリスク

複利計算して小規模企業共済の優位性を定量評価できるかと思ったが、予定利回りと運用期間に応じて、どちらともいえない感想になった。長期運用・高利回りだと加入する意味はないが、利率固定の場合に最初の数年、掛金控除の優位性が上回る傾向が見られる。

想定期間が長くなると、運用利回り以外の不確定要素が増えてシミュレーションの効果も薄れてくる。例えば、

  1. インフレ率が2%を越えて共済の予定利率を上回る
  2. iDeCoやNISAの掛金上限・年数が変わって、共済より有利になる
  3. 自分の研究が進んで、さらに画期的な節税手法を思いつく

どれも現実味があるが、特に3が実現した場合は預けた掛金を容易に取り戻せず、悔しい思いをするだろう。少なくとも20年未満の元本割れを防ぐには、法人解散するか会社を他人に任せて役員退任するか、準共済金以上を獲得するためのまっとうな理由が必要になる。

投資信託で含み益が出ている現状では、早めに加入して税金免除した方が確実なメリットに思われる。一方、利益分をまるごと掛金で持っていかれるとすると、上記23の場合の機会ロスが悔やまれる。

とりあえず悩んでいる間、予想外に共済の利回りやルールが改良される可能性もあるので、月1,000円でも加入しておいた方がいい気がする。掛け捨てになったとしても気にならない金額だし、共済金の受け取りに関して将来の退職金控除額を増やせるという面では、100%ポジティブだ。

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