売上急増したら真っ先に検討すべき経営セーフティ共済の掛金増額と前納

記事内に広告が含まれています。

ここ1年、友人の紹介で引き受けた仕事の報酬がやっと入金された。建設関連のソフトウェア開発で、売上高としては額面1,000万以上だ。

納品後の一括払いだったので、外注先への支払いを立て替えつつ、綱渡りの資金繰りでひやひやした。やっと一段落したと安心しつつも、思わず売上の額が膨らんでしまったので、いろいろ考えなければならないことが出てきた。

自営業者の年収と手取りは違う

売上だけなら1,000万を超えるので、見栄を張れば「年収1,000万」といえるのかもしれない。ただサラリーマンと違って自営業者は仕入れや経費を引くので、手取りはもっと低くなる。

大事なのは売上より利益であって、「売上1,000万超」というのは消費税の課税事業者になるというネガティブな響きしかない。「ぎりぎり1,000万に届かない売上で利益率100%を目指す」というのが零細企業の目標だが、今回は売上コントロールの効かない案件で、逆に事業・会社を分割するほどでもなかった。

会社の見積もり上は400万くらいの赤字だった。そこから出張費を実費計算して間接費や何から含めれば、だいたいとんとんかなという感触だ。残った利益を月数で割ると、自分の労務費は月給10万円もないだろう。

打ち合わせの出張は、成田空港まで鈍行で向かいジェットスターで往復。現地では3,000円くらいの安宿に宿泊。そこまで経費削減して何とかペイできる、厳しい案件だった。

元請けはつらいよ

これまで社長業をやっていたくせで、ついつい元請けを引き受けて取りまとめ役を買って出たのがまずかった。自社のスタッフでなく、外部の工務店やデザイナーさんとコミュニケーションするコスト、金額交渉のストレスは結構大きい。

広告代理店がプロジェクト予算の半分持って行ったとしても、それに見合う仕事を裏でしているのだと思う。営業、交渉、工程と予算のマネジメント…要望の多いクライアントと堅気な職人連中との板挟みで、胃が痛いことばかりだ。

外注費用を安く押さえられれば、その分儲かるチャンスがあるのが元請けのうまみだ。一方、あてが外れて費用が膨らめば、赤字分をもろかぶりすることになる。今回は土地勘のない地方で、はじめての業種だったので、いろいろ想定外のトラブルが起きて当初見積もりの2倍くらいかかった。

ウェブやスマホアプリなど、相場の決まった業種で下請け開発するのは案外楽だ。一人会社だと物理的なヒューマン・リソースも限られるので、今後は得意な部分だけピンポイントで参加する方がベターだと思った。複合的でややこしい案件は、融通の利くベンチャーの方が有利だったりするが、ハイリスク・ハイリターンなのは覚悟しないといけない。

取得したノウハウは無形資産

1年も関わって利益が全然出ないというのは会社としてまずいが、今は一人でやっているので利益率に対するプレッシャーもそこまでない。地方の温泉に泊まって観光しつつ、友人と楽しくプロジェクトを進められるなら、まあ悪くないともいえる。

もし株主や従業員がいれば、早めに見切りをつけるべきだった。また代理店経由だったら、そこまで肌を脱ぐ義理はない。フリーになって組織の後ろ盾がなくなったので、市場価値が下がったのは仕方ないと思う。お客さんとやり取りしていても、駆け出しのフリーランスと軽く見られてやりにくい局面もあった。

しばらくご無沙汰だったソフトウェア開発について、いろいろ勉強させてもらったとはいえる。実際の案件ベースでないと、なかなか勉強しようという気にならない。今回得られたノウハウを使いまわせば、次はもっと効率的に稼げるはずだ。

エンジニアとしては、苦労して培ったスキルこそが大事な資産と前向きに考えられる。契約上はソースコードの権利も留保しているので、これを使いまわすことこそがIT稼業の本懐といえる。ただ今回はあまりに疲弊してしまったので、この先1年くらいは働きたくない。

決算賞与が嫌いな理由

会期の途中でここまで経費が膨らむとは思わなかったので、計画通り利益を減らして赤字に持ち込む方法をいろいろ考えていた。従業員がいないので、期末にボーナスをパーッと出すとか豪華な社員旅行を企画するとか、そういう技は使えない。

そもそも、決算賞与が社員のモチベーションアップとか、会社の利益につながる有意義な投資なのかわからない。日ごろうんざりしていた社員が、「ボーナスたくさんもらって切りがいいから辞めよう」と思うかもしれない。翌年も同じくらい賞与を出せなかったときの落胆も大きい。

「感情マネジメントは面倒くさい」とホリエモンが言っていたのには同感だ。結局会社は一人でやる方が、意思決定が早いし節税の自由も大きい。何社か立ち上げてみて、結局一人法人に落ち着いたのは、①いろいろ節税の実験をしてみたい、②人と関わりたくないという理由が大きい。

自分でもできそうな仕事を部下に仕事を任せるということは、パフォーマンスが下がるだけでなく、他人に依存するという感覚があって気持ち悪い。「チームで取り組む」相乗効果まで持って行くのは相当難しい。その代償を払って得られるのが「部下の成長」だが、正直そんなあやふやなものに投資するくらいなら、自分の金融資産を育てたい。

モチベーションうんぬんの問題より、会社と従業員の関係は結局雇用契約でしかない。それ以上の何かをお互いに期待しようとする風潮が嫌で、他人の会社に勤めるのも従業員を雇うのも性に合わなかったのだと思う。

一人法人+LLPの疑似会社

たとえ一人会社でも、大きい案件を引き受けたときはフリーランス仲間と互いに外注・融通すれば何とかこなせる。そういう同業者・類似業者のゆるいネットワークを日ごろからメンテナンスしておくのが、フリーで続けるコツだ。別に大きな会社であっても取引先、パートナーとの関係が大事なのは言うまでもない。

もっと進んで一人法人数名でLLPを結成しておき、組合を仕事の受け皿にしてドライに収益配分するのもありだ。疑似的な会社組織として、これから流行るスタイルでないかと思う。プログラマーより税理士や弁護士のLLPの方が先行して増えているようだ。

LLPの設立にも登録免許税が6万かかるので、プロジェクトベースでつくるより、気の合う仲間と長期スパンで維持すればいいと思う。赤字でも均等割7万がかからず、パススルーで申告が楽なのもメリットだ。

ただ実際にそういう目論見でLLPを始めてみたところ、メンバーが引っ越したり事業内容が変わったりして、途中から休眠状態になってしまった。やはりチームで仕事をするというのは難しい。

経営セーフティ共済で利益繰越

役員の自分には当然、事前確定していない決算賞与など出せない(損金にならない)。給与でなければ、浮いたお金を広告や設備に投資するのがセオリーだが、差し当たって必要なものはない。車や不動産を買う趣味もない。

無理にキャッシュアウトせず、「ひとまず利益を繰り延べして使い道を考えよう」というのに最適なのが、おなじみの中小企業倒産防止(経営セーフティ)共済だ。

  • 毎年の売上は数100万程度
  • 今後4年くらいは(正確には40カ月)会社を続ける予定
  • その間、赤字でもやっていける運転資金がある

という条件を満たす零細企業なら、早めに加入して積み立てておいて損はない。逆に「半年ごとに売上2倍になるベンチャー」とか「年商1億ある中小企業」であれば、導入するメリットは少ない。

個人的には青色申告における「欠損金の繰越控除」と対になる、「利益の繰越」サービスだと思う。両者を組み合わせて、数年スパンで利益と欠損金を相殺して行けば、赤字をキープするのに役立つ。

掛金前納月数の計算が肝

今期は利益が出そうとわかった時点で、まず掛金を最高の月額20万円に変更。そして決算2か月前に、残りの期間で発生する売上と費用、なるべく正確にシミュレーションして、翌期の掛金前納を行う。

この前納金額(月数)を決めるところが腕の見せ所だ。小規模企業共済と違って掛金に利息はつかないので、必要以上に多く預けても機会損失になるだけだ。掛金分を運用して税率以上のリターンを出せる企業なら、そもそも共済を使うメリットはない。銀行から借り入れして簿外資産を築くというのもナンセンスに見える。

掛金前納の勘所としては、「青色申告控除を適用できる65万だけ利益を残す」のがポイントだ。青色控除は黒字のときのみ適用できるオプションなので、これを使えばその分、前年度から繰り越した欠損金に手を付けなくて済む。月額掛金の20万単位で、青色控除を残した最低限の前納月数を選べるといい。

計画どおりに利益調整できたが、申告書をつくっている最中に「法人に青色申告控除は適用されない」という事実を知った。

万が一、利益が残って黒字になるとめんどうくさいので、65万ギリギリでなくやや少なめを狙った方がいいと思う。黒字だと申告書が複雑になり、法人税額20万超の場合は翌期に中間申告(予定申告か仮決算)が必要になる。会社としては何のメリットもない、余計な事務コストだ。

掛金前納届出書のPDFにバグあり

中小機構の「掛金前納申出書」の書式はウェブからダウンロードできるが、PDFファイルに数値を入力してコンビニでプリントアウトすると、なぜかバグって空欄になる。結局手書きでやり直しが必要になったので、PDFの便利機能はあてにしない方がいい。

一応、会社の口座がある大手都市銀行支店で申請を行ったが、相変わらず共済関係はレアな手続きなのか、30分近く待たされた。毎回、銀行から中小機構に電話してやり方を確認しているようなので、掛金増額や前納の手続きは銀行を介さず直接機構に申請できるよう、改善してほしいものだ。