アラフォー女性心理の研究に役立つ『ブリジット・ジョーンズの日記』

記事内に広告が含まれています。

Amazonプライムビデオに無料で出ていた『ブリジット・ジョーンズの日記3』。なかなかおもしろかったので、さっそくシリーズ前作の1と2もレンタルしてきた。

BJシリーズは女性向けのラブコメディーだが、男性側から見てもいろいろな発見がある。むしろ三十路を超えたら男もチェックしておくべき名作だ。同世代の女性心理に興味があるなら、話のネタとして押さえておいて損はない。

30代~40代前半で、独身一人暮らしの人には特におすすめ。クリスマスや正月休み、誕生日にに独りぼっちで観ると、さらに共感できる。ブリジットと一緒に元気いっぱい”All By Myself”や”Happy Birthday to me”を歌おう。「ハッシュタグ Let’s Do It!」

(以下ネタバレ)

世の男性がBJに学ぶべき真実

なぜ男もブリジット・ジョーンズを観るべきかといえば、そこに30~40代女性から見た男性の理想像が体現されているからである。

恋人役のマーク、ダニエル、ジャックの3人は、性格はそれぞれ違えども絵に描いたような紳士に見える。ブリジットに対しては至れり尽くせり。仕事帰りにデート、週末は旅行に連れ出し、記念日でなくても花束やプレゼントを贈る。エリートで超多忙ながらも、洒落たお店でランチやディナーをアレンジするのに余念がない。

職業に関しては、マークは大臣やMI5ともコネがある敏腕弁護士。ダニエルは1では冴えない出版社の上役だったが、2からテレビ番組の人気レポーターに出世して、3のラストではその安否が新聞に載るほど有名人に。ジャックはもともと数学者で大富豪のベンチャー起業家という、極めつけの設定である。

3人のうち誰を選んでも玉の輿になることは間違いない。そもそもブリジット家も名門ダーシー家と近所付き合いがあるくらいだから、元から裕福だったのだろう。正月や洗礼式でホームパーティーが頻繁に行われ、場所も貴族の館のようなところばかりである。ブリジットの母親は奇人だが、3で村議会に立候補するまでになる。

恋人は常にパーフェクトな紳士

映画の趣旨としては「喫煙者で酒飲み小太り中年女のダメっぷり」がテーマになっているが、ふと気づくと恋人も友人もブリジット以外の登場人物は非の打ちどころがない。酒もタバコもたしなむが、軽薄そうに見えて情に厚い友人たち。恋人もダニエルだけが浮気性だが、それ以外はブリジット一筋で3人とも稼ぎも性格もいい。

ブリジットの男性版、「婚期を逃した飲んだくれギャンブル好きでメタボオヤジ」みたいなキャラはあまり出てこない。一応公平に1で主人公が務める出版社の上司、2でマークの弁護士同僚に太っちょは出てくる。しかし、どちらも「職場の悲惨さ」と「同類感」を際立たせるための演出であって、恋人候補ではない。

要するにBJの世界では「女性は多少隙がある方がチャーミングだが、男性は完璧でないといけない」という不文律がある。2の冒頭でブリジットがのろけて言うセリフがあるが、彼氏に選ばれる男はabsoluteにperfectなのだ。

マーク役のコリン・ファースはBJシリーズで紳士なイメージが定着したのか、『シングルマン』や『キングスマン』でさらにレベルが高いジェントルマンを演じている。『キングスマン』の名ゼリフ”Manners maketh man.” (礼儀が人をつくる)は、BJシリーズで出てきたとしても違和感がない。

頼れる男の行動力と包容力

マークがクライアントと会議している場面に、ブリジットが乱入してくるというシーンが何度も繰り返される。スピーカーフォンで卑猥な会話を聞かれるとか、ありえないシチュエーションも出てくるが、そこで動じないのが男マークである。

2作目で、それでも「マークが素っ気ない」とブリジットが振ってしまうのだが、男性側からすると「マジかよ。あり得ない」という印象だ。どう考えてもマークが浮気する性格でないのは明らかだし、ケンカしても男性側から折れるというプロットは1のラストでも実証済みだ。

ブリジットの日記を盗み見て、一見愛想をつかしたように出ていくマークが、実は新しい日記帳を買って来てくれるというのは心温まるエピソードである。

2作目、タイの空港でブリジットが逮捕されるシーンで、前夜に振られたダニエルは彼女を見捨てて搭乗してしまう。それに切れたマークとまた殴り合いになるのだが、これすら主役カップルに花を持たせるための、ダニエルの演出ではないかと思われてくる。友人のシャザーも同様だ。

ブリジットのいる部屋にタイ人のコールガールを呼ぶとか、2ではダニエルの間抜けっぷりが誇張されているが、すべてはブリジットとマークがよりを戻すためのお膳立てと見えないこともない。ダニエルもまたいい奴なのだ。

女性に年齢を意識させてはならない

男性としては、「アラフォー女性の自虐意識」なんてものは微塵も思い出させないよう、レディーとして丁重におもてなしすべき、というのが教訓だ。43歳になった3までくると、ブリジットの老け具合から「さすがに見苦しい」といえるシーンもある。なのにマークもジャックも男性陣はまったく意に介さないようだ。

2のタイ旅行で、友達のシャザーが「孫ほど若い」ジュードと恋仲になるエピソードがある。なぜかシャザーはブリジットの友人の中でもとりわけ老けて見えるのだが、ジュードが気にするそぶりは一切出てこない。

友人のトムはゲイという設定だが、3で他の女友達が結婚しても、最後まで付き合いがいいナイスガイだ。3のテーマはベイビーなので、彼も恋人とのゲイビーを養子にもらうため、コロンビアに行くことになる。

ブリジットの母親はシリーズを通して一番クレイジーなのだが、浮気をしても結局禿げた父親のところに戻って来る。3では便器に座ったまま紹介されるひどい役だが、父親もまたいい男なのだろう。ジェフリーおじさんと1の上司フィッツ(ティッツ)ハーバードはセクハラキャラだが、BJの世界ではスキンシップとしてむしろ歓迎されているように見える。

独身卒業までの長い12年

第1作『ブリジット・ジョーンズの日記』は2001年の公開で、ブリジットは32歳の設定。冒頭の正月ホームパーティーで、幼なじみで弁護士になったマークを紹介される。ここから2人がくっついたり離れたりする様子を描くのが、3作目まで続く本シリーズのメインストーリーである。

自分は最初に3から観てしまったので、マークとジャックのどちらが子供の父親なのか、最後までドキドキした。ラストの結婚式でジャックが赤ん坊を抱えて登場したので、「そっちだったのか!」と真に受けてしまったくらいだ。

1作目から順に観ていれば、ブリジットがマーク以外とくっつくはずがないことはわかりきっている。2は些細なことで仲たがいすることになるが、「ダニエルがどれだけがんばっても最後はマークとよりを戻すんだろうな」という結末は見え見え。3のジャックも本当にいい奴なのだが、ダニエル同様、マークのかませ犬に過ぎないのは可哀想なくらいだ。

2016年公開の3作目。最後に老いたブリジットとマークが結ばれる結婚式のシーンは、15年前の1作目からリアルタイムで観て来たファンには感涙ものだろう。2004年、2作目のラストがすでに結婚をにおわせていたが、空白の12年を経てようやく子供に恵まれ、シングルを卒業するブリジット。まるでスターウォーズのように壮大なドラマで、3をまた観たら涙が出てしまった。

2と3の間でブリジットが別れた最大の謎

本シリーズ最大の謎は、「なぜ2と3の間でブリジットはマークと別れてしまったのだろう」という疑問だろう。しかも3でマークはカミラという別の女性と結婚している(実は離婚協議中という設定)。

そういえばマークはシリーズ冒頭からバツイチの設定だったはずだ。この容姿と職業でモテないわけがない男だが、まじめ過ぎて普通の女性とは長続きしないのだろうか。一応作中ではブリジットのセリフから、「ヘマばかりして愛想を尽かされた」という理由が推測されるが、1・2を観ればそんなことはマークにとって問題でないとわかりきっている。

唯一の手掛かりは「マークの帰宅をブリジットが裸エプロンで迎えるシーン」だ。「チャラーン!」という作中何度か出てくる決め台詞とともに登場したブリジット。しかしマークの後ろに弁護士の同僚が何人もいて、お尻が見えないように後ずさりしながら、笑顔でスキップしながら退場していくブリジット…

3で最も笑える場面だが、実はこのシーンは前作のどこにも出てこない。その前の回想で、マークとブリジットが同じ雪だるまのセーターを着ているシーンは2の冒頭にちゃんとある。

もしかすると「裸エプロン」事件がマークとブリジットの間に空白の12年を生んだ原因だったのだろうか。そうとも思えないが、映画の脚本家から「そう読み取ってもらいたい」という意図を感じる。そのくらいしか手がかりになる伏線がないからだ。

ブリジットがモテないわけがない

「品行悪くて部屋も汚いダメな女性代表」という感じのブリジットだが、男性側から見るとまったくノープロブレムに思われる。ちょっとぽっちゃりした体形も、『バッファロー69』のレイラ(クリスティーナ・リッチ)が好みの男性ならドストライクだろう。

1作目では、やたらとパンティーを履くシーンがあり、網タイツのボニーガール姿で露出が多いのもサービスがよすぎる。恋敵役のラーラ(1作目)とレベッカ(2作目)は2人とも痩せすぎで、ブリジットが妬んでいるのとは裏腹に全然魅力的に見えない。

レネー・ゼルウィガーは2作目でさらに体重を増しているが、実はその間に撮影されたミュージカル映画『シカゴ』ではスリムな体形に戻している。『マシニスト』で激ヤセして『バットマン ビギンズ』でムキムキになった、クリスチャン・ベールのような役者だ。

3ではさすがに年齢的にメタボはナシになったのか、通常体形として登場する。肥満体形の女性はテレビ局の同僚メイクアップアーティストくらいなので、ちょっと寂しい。1では怪しげな転職先というイメージだった番組制作会社も、2~3を経て一流企業に成長して、エロ上司も相応に老けて出てくるのはおもしろいのだが…

2のエピソードで、実は上流階級出身のブリジットが「ドイツの場所も知らない」というのはやり過ぎに思われる。恋人役の男性陣と同様、愛嬌のあるブリジットも恋人としては最高だろう。本人の自意識とは裏腹に、シリーズ3作通して常に「モテ期」に見える。

BJシリーズおすすめ度は1>3>2

自分がBJシリーズを観たのは3>1>2の順だった。やはり筋通り1から順に観た方が、細かい演出の元ネタがわかって楽しめるだろう。順番に見どころを挙げてみよう。

2001年『ブリジット・ジョーンズの日記』

21世紀の幕開けはブリジット・ジョーンズ。今みても1作目は最高だと思う。オフィスに半透明ケースのiMacが並んでいたり、携帯電話がデカかったりするのも懐かしい。ダニエルと破局したブリジットが、バニーガール姿で歩く夜道。その後ろを何食わぬ顔でフォークリフトが通り過ぎていくとか、何気に演出も細かい。よく見ると、冷蔵庫の扉にブリジットの顔と理想の体形をコラージュした、ウケる写真が貼ってあったりする。

英語表現でSpinsterというのはヨーヨー製品(Spinstar)でなく「紡ぎ女(オールドミス)」という意味だったりして、勉強にもなる。正月には日記帳を買ってNew year’s resolution(新年の誓い)を書いてみたくなるような、前向きにさせてくれる映画だ。

個人的には最後に出ていたマークが実は日記を買って戻って来るというラストでジーンときた。ブリジットが行く先々でマークと偶然会うのは出来過ぎだが、フィクションなのでよしとしよう。

2004年『ブリジット・ジョーンズの日記2 きれそうなわたしの12カ月』

2作目は映画としてはちょっと残念な出来。冒頭からおのろけで始まって、マークとのベタベタなラブシーンが40分くらい続く。さらに顔が太くなったのはいいが、「こんなの俺の求めていたブリジットじゃない!」と観るのをやめようと思ったくらいだ。

マークと別れてタイの監獄に入るところから、ようやくおもしろくなってくる。しかし、「レベッカが実はレズだった」というラストは何ともお粗末なシナリオだ。まるで推理小説で犯人の動機が「精神異常者でした」というのと同じくらい、芸がない幕引きだ。途中で説明もなく友達が増える(クラゲ注意報の女と、最後にもう一人)のも謎だ。

2016年『ブリジット・ジョーンズの日記 ダメな私の最後のモテ期』

3作目は2で滑った反省からか、1作目に近い自虐的なムードに戻っている。邦題もシンプルな” Bridget Jones’s Baby”から「ダメなモテ期」に大胆に変えてきて、プロモーションに覚悟のほどをうかがわせる。

オープニングで名曲” All By Myself“で始まると思いきや、House of Painのヒップホップ曲”Jump Around”でワインをこぼしながら飛び跳ねまくる弾け振り。40歳を超えた独人女性の開き直り…「これこそみんなが求めていたブリジットだ」とテンションが上がる。

両親との新年パーティーはなく、iPhoneのFaceTimeで誕生日のお祝い。友人はそれぞれ結婚したり子持ちだが、役者は一緒でみなそれぞれ15年分老けているのがおもしろい。ビッチな友人役に同僚のミランダが出てきたり、旧作の再現と新要素がうまくミックスされている。

ドジなブリジットに愛想をつかしても必ず戻って来るナイト、マーク・ダーシーは貫禄がついてさらに男前だ。モジャモジャ頭や長いもみあげは、ブリジットに指摘されてさすがに直したのだろうか。コリン・ファースは他の出演作での紳士ぶりが印象的なせいか、さらに株が上がって見える。

BJファン同士がオフ会で会ったら、乾杯の音頭は間違いなく「ンーッゴッチィ!」だろう。ミランダと練習する「舌を鳴らした正しい発音」は、しばらく癖になる。

続編4作目のシナリオを推測する

最後の最後の新聞記事で、意味深に復活するダニエルだが、続編はありえるのだろうか。レニー・ゼルウィガーの容姿は3でもかなりきつかったが、観客層も高齢化することを考えると十分可能な気がする。

BJ4のサブタイトルは「ダメな私の切れそうな子育て」でどうだろう。息子がクレヨンしんちゃんのようなマセガキに育って、親子3代にわたるドタバタ劇というのが王道だ。あるいは「ダーシー家の伝統に従いイートン校に入ったが、寮でいじめられてニートになる」という設定でも、世相を反映していておもしろそうだ。

米国版BJ?『恋するアンカーウーマン』

BJの続編を待ち望んでいるファンに、ぜひおすすめしたい作品がある。2006年にアメリカで放送されたテレビシリーズ『恋するアンカーウーマン(原題 Pepper Dennis)』だ。

主人公のペッパーは体形こそ普通だが、ずっこけテレビレポーターという役回りがブリジットにそっくりだ。相手役のバブコックはそつがないイケメンだが、恋人兼職場のライバルとして2のダニエル的な絡みを見せてくれる。ノリの軽いバブコックと対比して、マークのように手堅い政治家もボーイフレンド候補として登場する。

2~3のキャリアウーマン志向を強めた米国版BJという感じなので、ブリジットの成長物語が好きな人ならペッパー・デニスも気に入ると思う。