映画『日本沈没』2006年版レビュー。大衆路線化したが緊張感はアップ

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正月休みに読んだ小松左京の『日本沈没』がおもしろかったので、映画も観てみた。1973年と2006年に2回映画化されているが、先に観たのは新しい方だ。

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奇しくも今日3/11は東日本大震災から6年目。震災のあとに日本沈没の映画を観ると、予言的だとか、事実は小説よりも奇なりとか、いろいろ考えさせられる。

わずか数年で日本全体が沈没するという設定はSFだとしても、地震や津波、火山の噴火という現象は日ごろから目の当たりにしている。日本人にとって、『日本沈没』は異様なリアリティーを持つ小説だ。

天災とそれに対抗する科学技術、政府や官僚の頭脳プレーに、潜水艦操縦士や自衛隊・レスキュー隊員の人間ドラマと、見どころ満載。

日本以外では生まれなかったであろう20世紀SFの金字塔として、映画が気に入ったらぜひ原作も読んでほしい作品だ。『シン・ゴジラ』が好きなら絶対はまると思う。

(以下ネタバレ)

エヴァの使途襲来を彷彿される首都被災シーン

監督はシン・ゴジラの樋口真嗣で、昭和テイスト溢れる特撮は堂に入っている。D計画の本部や画面デザインはどことなくエヴァっぽい。予告編でも効果的に使われていた、緊張感あふれる東京被災時のシーン「マグニチュードは7、7.4、なおも増大中…東京地方の想定震度は6強…本震来ます」のナレーションは、まるで使徒襲来だ。

都庁は崩れ、東京タワーも折れるし、六本木ヒルズも傾く。大阪は早々に水没し、奈良の大仏や京都の五重塔も崩壊する。首相の乗った政府専用機が阿蘇山の噴火に巻き込まれて墜落する偶然はやり過ぎかと思うが、映画的に見栄えがする演出ではある。

熊本城の天守が火山弾で破壊されるのは、昨年の熊本地震を経た今では洒落にならない。仙台の被災シーンや津波の描写も多く出てくるので、2011年の震災のあとでは上映が難しかっただろうなと思う映画だ。

トヨエツとミッチーはまるでナイトヘッドのよう

原作から変更されている部分は多いが、豊川悦司が演じる若返った田所博士のマッドサイエンティストっぷりがいい。

潜水調査船を操る結城役の及川光博が武田真治とそっくりなので、二人の掛け合いは90年代の『NIGHT HEAD』を思い出すようだ。「兄さん、頭が痛いよ」…前世紀末に一世を風靡したカルトなテレビドラマだが、トヨエツの演技も決まっていて今でも楽しめる作品だ。

新たに女性の危機管理担当大臣が加わったり、阿部玲子がレスキュー隊員として活躍したりする設定変更はまあ許せる。原作のD計画メンバーは男臭すぎるので、このくらい華があった方が今っぽい。

ただし、田所博士と大臣が20年前に夫婦だったとか、小野寺と阿部のやたら長いラブシーンはどうでもいい。諸外国との政治的な駆け引きや、官僚や自衛隊の避難計画が原作の醍醐味だと思うので、中途半端に庶民の視点が取り込まれた2006年版の映画は、中だるみするシーンが多い。

政治家の人間としての葛藤が見もの

首相臨時代理になった内閣官房長官の決断、

  • パニックを避けるため沈没予測を伸ばして発表する
  • 国宝を賄賂にして他国に避難受け入れを交渉する
  • 想定される死者・行方不明者数を割り引いて避難計画を立てる

は否定的に描かれているが、リーダーとしてはいたって合理的な判断だと思う。最終的に助かる人数も増えるはず。原作でも邦枝が文化財らしき木箱を残して女子供を収容するくだりも出てくるので、フィクションとしては人間臭い方が腑に落ちるのだろう。

冷徹なスタッフが最後の方で意外な愛国心とか憐憫を見せて自分も犠牲になるとか、よくありそうなエピソードだ。しかし小説第二部では、邦枝がしぶとく生き残って中田新首相とともに再演を果たすので、渡老人の「この分なら、やつは何とか生きのびるじゃろう…」という予言は実現する。

主人公の小野寺も、同僚の結城のように深海ではっきり「死んだ」とわかるシーンがなかったので、続編がつくられるなら原作と同じく「実は生きていた」路線になるのが見え見えである。

渡老人関連の怪人物は残念ながら登場せず

一方、政界フィクサーの渡老人は今回出てこないが、作中最も衝撃的な有識者の見解

何もしない方がいい…そういう考え方が出るところが、日本人が他の民族と決定的に違うところかもしれません。

は、首相の口を介して原作どおり忠実に語られる。田所博士を超える変人ぶりだった福原教授は役割を変えて出演するが、やはり裏方で国家存続のシナリオを描く怪人物たちが出てこないのはちょっと寂しい。

バクテリアの発生やプレート爆破の新要素あり

科学的な新要素として、深海で異常発生したバクテリアがメタンガスを生成してプレートの沈降を早めるくだりは、いかにもSF映画っぽくておもしろい。プレートを爆破して沈降を食い止めるというアイデアも原作になかった部分だ。そのために、わだつみ6500がわざわざ深海までN2爆薬の信管を運ぶという見せ場がつくられている。

エヴァにも度々出てきた懐かしいN2爆薬、宇宙からも見えるきのこ雲の数からすると、10個くらいでプレートを切断できるのだからすさまじい威力だ。

冷静に考えると、わだつみ6500の失敗後に2000で特攻するより、原作でも出てくる他国の潜水調査船を借りることはできなかったのだろうか。日本が沈没してうれしくない国も少なからずあるはずだから、掘削船を貸してもらったついでに頼めばよかったと思う。

いろいろ考えると、そもそも深海まで信管を運ばないと着火できないという設計に無理がある。殉死した2人のパイロットが何だか気の毒に思われる。

日本「半分」沈没後のその後も観てみたい

最後に居酒屋のメンバーが救助されるシーンを見ると、日野の避難所から水没を避けて甲州街道沿いに西に逃げている最中だったのだろう。途中で中央線らしき線路と列車が崩壊している描写もある。しかしカメラが上空に引く際の風景を見ると、南の道志みちか、北の国道411号くらいの標高でないと、まわりの沈みっぷりが説明できない。

仮に411号の柳沢峠付近なら標高1,400mはあるから、関東平野はほぼ水没してしまった想定だろう。この状況からプレートの沈降が緩和され群島となった日本で、半減した人口がサバイバルしていく第二部が始まるのもおもしろそうだ。