かくてもあられけるよ

セミリタイアしてシェアハウスで暮らすノマドなミニマリストのライフハックブログ

東京~千葉、二地域居住の実録『週末は田舎暮らし』by馬場未織レビュー

最近「都市生活と田舎暮らしのいいとこ取り」のような暮らしができないかと考えている。長期的には地方に住んだ方が健康的でストレスも少ないと思うが、現状では残念ながら東京以外でフリーランスとして仕事を受けるのは厳しい。地元の仕事があっても、ウェブやグラフィックデザイン、ソフト開発の相場は1/10くらいだったりする。

『半農半X』は完全な地方居住を前提として、本業以外に自給自足範囲の農業を手掛けてみようという内容だった。

もう少し緩い方法として、週末だけ田舎の別荘で暮らすような二地域居住・二拠点生活というライフスタイルがあり得ると思う。そこで表紙の写真がかっこよかった『週末は田舎暮らし』という本を手に取ってみた。副題は「ゼロから始めた二地域居住奮闘記」である。 

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節約・片付け・田舎暮らしはいつの時代も定番コンテンツ

正月休みの公立図書館。最近出た話題の本は軒並み予約待ち状態で、棚に並んでいるのは古い本しかない。何となく主婦向けの料理や裁縫コーナーに並んでいるライフスタイル関係の本が気になった。20年も前から「○○円で暮らせる…」とか「イギリス式/フランス流お片付け…」という本はたくさん出ているようだ。

図書館やブックオフの200円均一コーナーに並んでいる昔の本を見ると、いつの時代も節約とかシンプルライフというのは定番のテーマに思われる。ここ数年人気の「断捨離」とか「ときめく片付け」とかもネーミングの妙で、過去に出たコンセプトの焼き直しと言える。そういう本の中に必ず混ざっているのが「就農、田舎暮らし、無農薬栽培」というテーマだ。

話が具体的で含蓄もありおもしろかった

『半農半X』が精神論中心で少々拍子抜けだったので、あまり期待しないで読んだのだが、『週末は田舎暮らし』は意外とおもしろかった。「どのくらいの予算で土地を買って家を建てて(初期費用)、日々の生活費(ランニングコスト)はいくらかかっているのか」というのがずばり聞きたい点なのだが、自然礼賛の本にはそういう下世話なネタはあまり出てこない。本書もそこまで具体的な金額は書かれていないのだが、土地を購入するまでの不動産屋との交渉についてはかなり詳しく触れられているので大いに参考になった。

週末は田舎暮らし---ゼロからはじめた「二地域居住」奮闘記

週末は田舎暮らし---ゼロからはじめた「二地域居住」奮闘記

 

著者が設計事務所出身の建築ライターで、理系的な素養や教養があるからか、文章がこなれていてぐいぐい読ませる感じだ。田舎びいきだけではなく都会のメリットも取り上げつつ、「田畑を維持することは天候や獣害など自然を相手に予測不可能な事態に備える訓練だ(ついでに子育ても)」というあたりは含蓄がある。

交通費を合わせてもお得な田舎の格安物件

著者夫婦もアラフォーの子育て世代で、田舎暮らしについては子供への良い影響がふんだんに語られるのだが、意外な側面として「週末住宅は嫁姑問題の息抜きにちょうどよい」というメリットも挙げられている。

両親と同居している世帯には「いつか独立して家を持ちたい」欲求があると思う。都心に5千万円の狭い家を買うより、郊外に半額の中古物件を探して交通費・通勤代を合わせてもリーズナブルというのは魅力的な選択肢なのだろう。

アクアラインの通行料金が普通車片道3,000円の時代でも、坪単価が半額なら80年は毎週末往復できると試算されていて、移動の手間や時間はさておき、金銭的には悪い話でなさそうだ。車での長時間の移動も、家族・夫婦のコミュニケーション時間とポジティブにとらえられている。

土地探しの交渉術が参考になる

物件を探す過程で、最初に賃貸サイトで調べてから脈がありそうな不動産屋に個別にコンタクトして未公開物件を探す、というのは参考になるテクニックだ。最初に小田急線沿線で探したのか、秦野市内の2つの土地が紹介されているのだが、まさに自分も震災後の2011年に同じ考えて秦野市内の安い賃貸アパートに移住したので、思考がかぶっていると思った。

かつて賃貸を起点としながら、小屋でも建てて暮らそうと売りに出ている土地を探してさんざん歩いた経験がある。国道246号以北の丹沢山系すそ野はのどかな田園地帯だが、盆地を挟んだ反対側の渋沢丘陵の方が山並みがきれいに見えるだろうとかシミュレーションしていた。本書でも渋沢と秦野で「接道なし、古井戸、調整区域」という土地が出てきて、ひょっとすると自分も下見した物件だったかもしれない。情景がイメージできておもしろかった。

著者の土地探しの条件が、

  • 500坪以上
  • 都心から車で1.5時間以内
  • フェラーリは無理でもポルシェが買えるくらいの予算

と描かれているので、共働きで年収は平均以上のややセレブな家族ではないかと思う。親の世代から東京都心に持ち家というプロフィールからも富裕感が伝わってくる。

ちなみにポルシェの新車最安価格は税込み619万円である。トヨタの国産車であればクラウンよりも高く、レクサスのミドルレンジくらいだ。自分は中古の4ナンバー貨物商用車、ハイゼットカーゴを買うのが精いっぱいで、それすら車検代を維持できずに売却してしまった。今はもっぱら自転車で近所を移動している。『 Bライフ 』に影響され土地が欲しくなった時期もあるが、身の丈を考えて結局秦野の格安賃貸よりさらに安いシェアハウスに落ち着いた次第だ。

二拠点居住はやはり金持ちの道楽か…。自分が本気で田舎暮らしに取り組むなら、『Bライフ』のように撤退不能な背水の陣になりそうな気がする。

房総半島南端の三芳村が舞台

最終的に著者が土地を買い求めた南房総の三芳村は、館山に近い千葉、房総半島先端の山間部だ。一度、自衛隊の館山航空基地を訪れたことがあるので、あのあたりの雰囲気はわかる。都心からの距離感としては三浦半島より伊豆半島に近く、熱海や伊東~下田ほどリゾート開発もされていない特徴のないエリアという印象だ。著者は先住者から広大な田畑と合わせて、例外的によくメンテナンスされた古民家を譲り受けることになる。

これからつくろうと思っても、絶対につくれないような家。この土地の風土にすっかり溶け込んでしまって、デザインとか自意識みたいなものがまったくない家。

という描写は、建築家的な視点でヴァナキュラーな土着的構築物への最大級の賛辞と受け取れる。結局、水洗便所に替えてデッキを増設したくらいで、ろくに改修せず低気密・低断熱のまま不便に暮らしているというのがおもしろい。考えようによっては使いにくい・暮らしにくいのも古民家の味だというわけだ。

数々の苦労話もどことなく楽しげに見える

子供が中学生になれば部活や友達付き合いで毎週末千葉に家族と帰るというのも難しくなるだろう。共働きでご主人は不定休、学校のPTA役員を引き受けたりとか、相当な苦労をともなって二拠点居住を続けていると思うのだが、そのあたりのエピソードもユーモアを交えて肯定的に語られているのが好感を持てる。実際は予定が合わず家族が個別に千葉に帰る長距離のバス代など、馬鹿にならない金額だろう。

スケジュール調整の大変さとともに描かれる田舎暮らしの苦労は、ほぼ草刈りの話題である。田舎ではめずらしい若夫婦に対して近所のサポートがあるとはいえ、各週の帰宅で夏場の仕事はほぼ草刈り、竹刈りというのはリアルな話だろう。巻末にある東京R不動産のコラムで、物件探しの条件として「狭い土地(管理が楽)」と挙げられているのは説得力があった。

田舎暮らしと農業に関するさまざまな苦労話はあるとしても、全体的には楽しそうである。草むらで拾ったキジの卵を孵すとか、なすすべないイノシシの破壊力とか、普通に街中で暮らしていたら一生体験できないようなストーリーが満載だ。ここまで魅力的に語られると、もう自分で房総半島に行って体験してみないとわからないのでは、という気がしてくる。

アーリーアダプターはすでに田舎に移住を始めつつある

半農半Xと同じく著者もNPOを設立して南房総の地域おこしに関わっている。ただし、一時的なブームを煽らないように自然体でPRしている雰囲気が伝わってくる。学生を交えた地域振興のワークショップや移住者のサポート、地元野菜をつかったカフェの運営など、自然と賛同者が増えているようで、以下の東京R不動産のコメントは事実だろう。

全体で見ればまだ都市一極集中なのかもしれませんが、アーリーアダプターの動向を見れば徐々に分散型の世の中に変わり始めている確信はありますね。

そんなトレンドに乗せられてか、あるいはシェアハウスが値上がりして経済的に都心に居続けられなくなるかで、自分もいずれ地方に移住しそうな気がする。できれば二拠点居住で段階的に試したいが、突然東京脱出のハードランディングになるかもしれない。いずれにしても「田舎の安い土地を探す」という趣味にまた熱が入りそうだ。